大阪の北新地にキャバクラを初めて開店した孫太会長は高度経済成長時に多額の借り入れを繰り返してついに１０店舗近い店のオーナーとなった。バー、キャバレー、クラブなど女性接客型酒類販売だけを展開し、店舗拡大時期に持ち掛けられたフーゾクやソープやたこ焼き店などには投資しなかった。ソシアルビルも買わなかった。全て賃借物件に店を展開した。自分の得意技に一点集中した。というより、新地は地価が高いうえ、長期資金繰り計画が苦手だったのである。ま、不得意な分野には手を出さないほうがよい。
酒屋に勤めていた若い頃はお金がなかったので毎日足を棒にしながらビールやウィスキーを配達していたが、ある日、女性をうまく使えば付加価値をつけられることに気が付き、おりしも融資したいという銀行を見つけては金利交渉など全くせず無条件でお金をゲット、次々と居抜きで店舗買収を繰り返していった。だから借金することには抵抗がなく、又、客は次々と増えて行った時期なので毎日入る現金売上だけでなんとか資金繰りもつき、ついに多数のお店と念願の目を見張るくらい大きなダイヤモンドリングとローレックスを手中に収めた。腕時計にはそれはもう、見たこともないようなダイヤモンドが散りばめられており、まるで携帯用宝石箱みたいなもの。女性ならずとも男性も目が点になるほどの美しさである。金側の光沢も素晴らしいものであって、触らせて欲しいという人は枚挙にいとまがないほど。これを武器にホステスから次々と落ち目の店舗買収話を入手して早めに触手を動かすという情報仕入れ道具として活用していたのである。
加齢に抗する様に美しい道具を身体にまとう必要がある。それが「相対」というもの。
資金繰りも同じであって、相対（そうたい）の中でバランスがとれていた。だから借金増加は資産増加と相対的位置関係にあった。
ところが「相対こそ全て」という絶対概念なぞ、どこにもないことが露見してくる。相対概念はいつしか絶対概念に成り代わり、思考が硬直化していた。従来の手法が通用しなくなってきた。バブル崩壊前夜だ。だが、1度得た特技が経営失敗の元凶に変化することには抵抗があった。ここまで伸し上がってきたので、その方法には自信があった。それゆえ方針転換は容易なことではない。
例えば
徐々に店の未収金が増えてきた。
客の帰り時間が早くなってきた。
ホステスへのチップ話が聞かれなくなってきたのだ。
これはやばい、と感じたが、利益を出さないと返済できないし、そうすると課税に耐えられないのでにっちもさっちも行かなくなってきた。おまけに今まで理解を示してくれた第２地銀の担当者が短期資金繰りに対し徐々に難色を示すようになった。融資対象店舗及び現状店舗視察名目で、あれほど飲ませて食わせて３、４、５次会まで接待したのに、手のひらを返すようになってきた。銀行はそれなりに不動産融資に関する不良債権増加に困窮していたから1度決めた方針をこれまた変えることは容易ではない。それは平成４年秋のことであった。
孫太会長の苦悩は日増しに高まり、毎晩自分が店のお客さんを演じるようになっていった。
水商売では組織の秩序が乱れるから例え会長であっても自分の店のホステスに手を出さないことが鉄則。それは守る。が、徐々によその店で憂さ晴らしをするようになる。他店の経営状況偵察のつもりがワナにはまっているのかもしれないが、悶々とするよりその方が少しは気が晴れるというものだ。いくら遅くまで飲んでも絶対酔わないという特技をもつ孫太会長はかねてより目をつけていた巨乳の美人ホステスＡ子を口説きにかかった。（人間、何か夢とか目標を持たなければ生きていけないもんだ。例えそれがどんなに小さなことでも）
飲ませて食わせて札束を見せびらかせた上、彼女が欲しいものはバッグ、宝石から下着までなんでも買ってあげた。
「んもー 全くもって 時間とお金がかかるもんだな」
とつぶやきながらも何故このようにややこしいことをするのかと言うと、交渉術の勉強のためなのだそうだ。昼の経営も夜の口説きも同じなんだそうだ。会社において、上司を説得できない営業マンは客も説得できないのと同じ。
だから手間隙かけて、憂さ晴らしも兼ねて必死にホテルへつれ込む努力を繰り返すのだ。←なんだかいい訳のような気もするが・・
ところがこの言い訳はまんざらウソではないらしい。何故なら孫太社長はその当時は既に糖尿病を患っており、ホテルへ行ってもやるべきことにちょっと不自由していたからである。交渉３ヶ月、ようやくつれ込み同意を得た。(^^) 暴力とか債権者の優越的地位利用などの汚い手は使わない。あくまで一対一。そのための涙ぐましい努力を厭わない。
目的はベッドインだがそれだけでは間がもたない。何がなんでも彼女に対する欠礼は避けなければならない。(>_<)
だって会長さんだもの。(~_~;)
そこで最初はマッチ棒の飛ばしっこをやった。ジクの先っぽが赤、緑、青、黄色などの各色を分けて、目印となるマッチ棒に向かって人差し指でピーンとはじき、手前のより近くに止めた方が勝ち。オーバーすると2点減点だよ、なんて2人のルールをその場の思い付きで決めて遊んでいた。
そのうち2人とも段々飽きてきちゃって、間がもたなくなってきた会長は徐々に刺激物を使わざるを得なくなってきた。用意周到の会長はやおら極秘の「薬」をセカンドバッグから取り出し、中に入っている白い錠剤を医者からもらった糖尿病用の薬を包んでいた半透明の紙でくるみ、上からそっと押さえ付けながらダンヒルの金のライターのカドを使って砕きはじめた。2人は素っ裸のまま、カーペットの上で息をのみこみながら丁寧に細かく粉末にしていった。
「あ〜疲れた。緊張するとくたびれるよ。今度は君がやってごらん。(^.^)丁寧に、ゆっくりと」
彼女「これって 一体 何なの？」
会長「ハワイで友人が手に入れてきたマリファナの錠剤だよ。細かく砕いて粉末状にして、鼻から吸い込むとすっごく気持ちが良くなり、疲れも吹っ飛ぶんだよ。」
彼女「わ〜素敵！(^.^)会長さんって何でも詳しいんですねー。」
コンコンと小さな音をたてながら慎重に細かく砕くこと約５分。すっかり白い粉末が出来上がった。
「もうこれでできたのかしら。」
会長「ああ、それくらいでえー。ワシが最初にやってみる。今日でまだ二回目だけどね。」
会長は怪訝な顔をする彼女の気持ちを察し、手ほどきを示すことにしていた。
そして鼻の片側を抑えながらすっと吸い込む。そして、卒倒するばかりに恍惚の笑顔で身を後ろにそらしながら
「あ〜効く〜」
彼女「私もやってみるわ。ねえねえ 私にもやらせて(^.^)」
と、会長からそっと手渡しを受け、ウキウキしながら鼻から吸い込むと右手を後頭部に当てながらゆっくりとのけぞり
「あ〜効くぅ〜、気持ち、えーわー。なんか脳に来る感じ〜」
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数年後にその話をしながら会長はしみじみと人間の心の奥深さらしきものを語った。
あの女も良く言うよな〜 あの錠剤は頭痛薬のノーシンなんだぜ。(-.-)
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