息子相手に提訴する変なおじいさん

とあるのどかな寒い午後、マゴタ司法書士事務所の窓からひばりの声がピーチクパーチク(-_-)zzz

突然、じゃりじゃりーっと、ドアが開けられ、けったいな装束のじいさんが元気な足取りで入ってきた。前触れも無く、驚く様子に爺さんは机の前の椅子に近寄り直立不動で「先生、ご相談があるんですけどー」と白い大きなマスクごしにふがふが言っているが声に張りがある。


はい。
と
顔をあげて驚いた。そのいでたちたるや、冬だというのに白い柔道着を二枚重ね着している。
足元は黒の地下足袋。頭は坊主。司法書士事務所なんて普段くそおもしろくないところに目的もなく初対面の人がぶらっと入って来る訳も無く、となればスーツとは言わないけどそれなりの格好でくるはずなのに、なんで？？

爺さん「区役所から紹介してもらってここへ来ました。ふがふが。昔はこのあたりでやってたのですぐ分かりました」と直立不動。
マゴタ「そうですか、じゃ、まぁおかけ下さい」と言うと、おっすとかいって身の丈以上の長さがある白い包帯にくるまれた棒を壁に立てかけ、昔昔いなかの公立中の学生が使っていた木綿のしろっぽい学生カバンをよっこいしょと肩からドスンと下げて着席した。

町中見渡したって今時長い棒を持ち歩いている人もいないが、白い学生カバンに物を入れて歩いている人すら世田谷じゃ見かけた事が無いので実に不思議な風景と化してしまった。

やばい。
区役所の職員もふがふがと何をしゃべっている爺さんか分からないのでこっちに振ってきたな、と直感した。(?_?)

「で、何の御用でしょうか？」と尋ねたものの、ふがふがマスク越しの声が聞きとれない。しょうがないから左耳を差し出して一生懸命聞こうとするのが聞きとれないのでメモを取り出して紙に書いてもらおうとしたが、・・書かない。

再度聞き出して分かったのは
コーデン、セガレ、障害者手帳、金が無くなった、だらしがない、けしからん
という単語。

面倒だから法テラスへ行けと言いたくなっていたが粘るのでそうも行かずに立ち往生。

しょうがないから話題を変えて耳を馴らそうとするしかない。

「その棒は何ですか？」と尋ねると
爺さん「あ、これっ？鉄の棒。二本。重い。」
と、今度は聞きとれるじゃありませんか。(^o^)

お、この調子だ、コミュニケーション技法だ、とばかり続けて
「して、その、むかし学生が使っていたみたいなカバンの中に入っているのは何ですか？」
と言うと
爺さん「ほら、見て、石、バナナ、おにぎり、文庫本・・」

主語と動詞が無い会話にも馴れてきたので
「随分大きな石ですねぇ、かなり重いでしょ、３個も。一体なんで鉄の棒やら石を持ち歩いているんですか？」

爺さん「心電図、図った、学生、みんな見ていた、つんつん、と来てつーーっ、まっすぐ、よく生きてんなと学生の声」

　　マゴタ「ん？」

爺さん「心臓、障害者」

マゴタはがてんが行った様子で「あ、そうか、ようやく依頼の趣旨が分かりましたよ。長男の方がふしだらな生活をしたのが原因で障害者となってしまい、けしからんやつだと思いつつ我が子だから激励していたが立ち直らず、今般、ついに心臓病でお亡くなりになってしまい、その相続登記をして欲しいのでしょ？」(^_-)-☆

爺さんは首を大きく横に振って「ちがう！」


で

しばし　チ　ン モ　ク　・・・・

折角会話リズムに乗りかけたと思ったが、重苦しい展開となってしもーた。(;_;)ｳﾙｳﾙ

一喝されると後が続かなくなる。
が、別段、いらつくこともなく大きな声を張り上げないところをみると理性はありそうな方ですね。
先般来た女性のクレイマーばばぁよりマシ。

意味が分からないのに加えてなにせ、ふがふがと奥歯に物のはさまったような聞き取りにくい単語の羅列だけなので、真意を汲み取るのが大変。
あ、そーか、奥歯といえば、入れ歯だよな、マゴタ「すいません、もし入れ歯なら聞き取りにくいのではめてもらえませんか？」と尋ねたら
「忘れた、無理」
と即答。
その早いのなんのって。
で、まだ分からない。言っている意味が。

そこで又話題を変える事にした。

変わった様相なんだからそれを話題にしてトーンを合わせよう。
「その長い棒は何を包んでいるんですか、白い包帯で」
爺さん「鉄。ゴキロ。」
マゴタ「えっ？なんで棒を持って歩いているんですか？」
爺さん「フカをかける」
マゴタ「軽い時代なのにわざわざ重たい棒を持って歩く？フカ？ふかひれスープじゃないみたいだし・・・・ｺﾝﾜｸ」
じゃ、石もそうか。三つも入ってる。かなり大きな石が。

マゴタ「で、バナナは？？こりゃどう見てもバナナですよね？」
爺さん「しょーかにいい」

で、おにぎりは？
爺さん「腹が減ったら食う」

ま、確かにそうだけど。(-。-)y-゜゜゜

煙草盆でも持ってきましょうか？
爺さん「タバコ、やめた。身体に悪い：」
喉が渇いたからビールでも出しましょうか？
爺さん「さけ、やめた、もうトシ、マゴ、いる」

なんだかアメリカ西部劇時代に片言単語を覚えたアメリカインディアンと話をしているみたいである。
もうここまで３０分経過。
全く見えてこない。
一体何者なのか？
柔道着は重ね着のまま脱がない。

ツヅク




↑なんだか書いているだけで爺さんタッチが乗り移ってきたようだ