ひばりぴよぴよと鳴く神社
事務所でのんびり構えていた春の昼下がり、
大学時代の親友で、東証に上場している社長の大和田さんから電話が入り「すぐ銀座東急へ来てくれ、友達が関西から来るチンピラ２人から恐喝されようとしているんだ、助けてやってくれ」と焦って言う。
慌てて電車に乗って待ち合わせのホテルへ行ったら大和田社長の隣に困った顔の松木君がいた。
あまり大学時代では話もした事が無いけど、顔を見たらお互いに直ぐに思いだした、なんだ、あいつか、という感じで。
喫茶室に入って早速どうゆう情況・経緯なのか、その事情を聞いてみた。
松木「いやぁ、実にお久しぶり、今日はわざわざ来てくれて悪いね。実はね、僕が専務をやっている頃、ま、多少はお金もあったので、銀座に接待で通っていて、そのうちクラブホステスと仲が良くなってしまったんだよ、うっひっひ(^^♪。
ところが彼女が大阪へ転勤となる事が決まって、なんとか東京に残りたいからどうしたらよいか、という相談を彼女の部屋で明け方まで受けてあげたんだよ。東京と大阪の二か所で営業しているから上から指示が出たらしい。あれやこれや転勤しないで済む方法を考えてあげたんだけど、でも、彼女はとうとう大阪へ行ってしまったのさ。そしたら、一ヶ月も経たないうちに大阪からどなり声のおっさんから電話が来て、夜中まで２人でいたというのはどーゆうーことなんだ、絶対おかしい、俺の（か、会社の商品たるホステスに）女に手を出したなこの野郎、ただじゃおかんぜ、すぐに挨拶にこい、さもなけりゃ会社に乗り込んでそこの連中に言いふらしてやるぞ、と、そりゃえらい剣幕で怒られたんだ。」
マゴタ司法書士「へー、だってやっちゃったんだろ、(^_-)-☆？ すいません、って、謝ればどう？」 と呑気な答え。
松木「いやぁ、全然、ただ相談に乗っただけなんだよ、手も握ってないのになぁ。絶対乗ってないよ。あ、乗ったのか、乗ったのは相談だよ。(^。^)y-.。o○ で、怖くなってしまったけど、事情を説明しないと彼女が殴る蹴るの乱暴をされるんじゃないかと心配になってたまらず大阪へ行ったら、事務所の応接室みたいなところへ連れ込まれ、数人に取り囲まれ、正座させられたうえ、さんざん怒鳴られ、責任とれ、顔を潰しやがってこの野郎、俺の女を傷つけやがったな、たぶらかしやがったな、などと脅かされたんだよ」
松木「今日はその続きで、そこの事務所の手下みたいな若い２人が東京へ来て、先日の話の落とし前を付けろ、その具体的な話をしようじゃないか、という電話があり、騒がれると困るので已むなく応じたんだが、まだなんだか要求は分からないけど、マゴタ先生にも同席してもらいたいんだ。貴方がついていていなけりゃ私は殺されるかもしれない」と恐怖の顔を装うものの頬がひきつっているのが見える。
マゴタ「お前、乗った乗らないのところでトチってんじゃないよ、(ーー゛)しかし、よっしゃ、分かった、今日は予定が入ってないから事務所は若衆に任せて一日付き合ってあげよう。」
と答えたら
見届けた大和田社長は格闘技をやっていたマゴタが引き受けてくれたのなら安心だと思ったのか、そのまま自分の会社へさっさと帰ってしまった。
なんだか痴話の延長みたいだけど、金を出せというなら刑事事件に発展する可能性もある。いかなる展開となりますやら。楽しみと不安が入り混じる。
マイペースなのやら責任感が強いのかよく分からない大和田社長が去ってしまい、残された２人は待ち受け場所へ向かう。
午後３時に銀座の某ホテルの喫茶室で２人に面談。さぞかしヤクザっぽい奴かと予想していたら大阪の不動産業者でまだ２人とも２０代という若さ。黒系のスーツをびしっと来てセカンドバッグもブランド的高級品。
お金ありそー。(^o^)
２人組み「わてら大阪からきたばかりです。チェックインしてきますから後で天ぷらやで夕食しながらゆっくり話しましょう、マゴタ先生も、ほならよろしく」とそそくさと立ち去った。
様子見か？
ま、そんなもん。
交渉はうまいみたい。
初対面の切り上げ方がうまいから。
いきなりドンパチするかと思いきや、かるーく、終わっちゃったよ偵察的挨拶。
拍子抜けして、夕食に始まる「本番」まで時間が数時間もある。
それまでする事がないから、一旦事務所へ帰るよ、と告げたら松木専務は袖を引いて帰らないでくれ、いつ後ろから襲われるか分からないから、傍にいてくれと懇願する。
そんなに怖いのか？
しょうがないから喫茶店を替えるため徒歩で移動、そこで再度話の成り行きを二時間ばかり聞いた。
その後、世間話をしつつりラックスさせて時間稼ぎする。
さて、１８時、天ツナに先に行ってかしこまっていると、さっき会った若い二人組の男がまもなくやってきた。
今度はカジュアルな服装だがびしっとネクタイを決めている。髪はリーゼントっぽいけど普通の髪型でおかしくない。目は鋭く尖っているわけでもないがそれでも笑っているような穏やかな目ではない。頬には傷もなく、アホそうじゃないからま、綺麗な顔立ちです。
２人のうち手前側の男が専ら話をするのだが、松木側に座る私に視線を時やり熱くしながら、晴海ふ頭へ荷揚げする東南アジアの産物事業輸入の話題にもってゆく。
おいおい、松木専務は蘭州とムンバイに現地工場を持つ石材加工会社経営だぜ、パパイアとかラワン材じゃ方向が違うのではないか？と思いながら、あとどれくらいしたら銭を出せ、警察が民事不介入で手を出せないようにするため資本金として格好をつけたい、とか言い出すのだろう、とマゴタ司法書士は待ちかまえていた。
アジア経済動向論で２人が盛り上がっているのでビールを何杯もお替りしながら美味い天ぷらを食べるが、味が分からない。
頭の中が猜疑心と警戒心で満たされ動くと
味の感覚が鈍る。
だから食事の時は共通の馬鹿話を毎週展開するバラエティーか家族みんなが楽しめるクイズ番組が多いのだ。
警戒しながら聞き耳を立てているが一向に恐喝話にならない。
やがてデザートのイチゴが出てきてしまった。
そういや随分食べたな。
軽くアメリカンみたいなコーヒーを飲んで、はい、今日は、何も無し、終わり、解散、っていう事になるのかな、と思ったら、もう一軒飲みに行こうという事になった。ゆっくり食事したけど、まだ八時過ぎ。
何しろ開店直後から食べているんだもんね。
前座が長すぎ。
今日は恐喝の話はないよ、もう帰りたいな、と思ったが松木専務がうるうるした目で見つめ返すので黙ってついて行くことにした。
と言う事で男性四人、歩いて近くの松木専務の行きつけの店へ。
EVを上がって何階だか分からない階の扉が開くと見渡して眺めるドアがスナックかクラブのきらびやかなローマ字名で彩られており、その全部から全く音が漏れ聞こえて来ない。
完全防音措置を施しているんだな、きっと。凄い建築費が掛ってるでしょ。
実に静寂な一瞬。
後で聞いたらそれもそのはず我々が向かったクラブ以外は全て倒産してしまい、テナント無しじゃみっともないから生き残った専務の店のママが寂しいから看板だけははずさないでくれと大家に頼んでいたとのこと。
歩道から見上げる電光看板も同様にバブル時代の派手な色を抱えたまま八方にその輝き放っている。
ブランデーとかスコッチの水割りセットとフルーツが並べられ、フラワーデザイナーにコーディネイトされた生け花を背景に
派手な装飾の壁によりかかるように並べられた革張りソファに深く座ってホステスらに取り囲まれている三人を眺めている。
そこへ肌がつやつやに美しいアルバイトホステスみたいなピチピチギャルもマゴタ君の傍に座って話相手をしてくれる。
あ、そうか、ここは昼間の会社同士の激戦を勝ち抜いてきた男が気を抜くところなんだな。
私を蚊帳の外へ置かないような配慮からか、時折２人は「ね、そうでしょ、センセイ！？」とか相槌を求めてくるのでおちおち酔っ払っていられない。
恐喝事実を持ち帰らなければ今日来た意味が無いのだから。
こ一時間ぐらいママやらチイママやら新人と称する美人を相手に３人は一見仲よしそうに笑顔を交えて海外旅行や時事問題を混ぜ食って話をしている。
ホステスの名刺も集まったところでお開き。
かなり高そうな料金は、天ぷら屋同様専務が払っていた。
天ぷらやだけで１２〜１３万はかかっているよ、四人であれだけ飲み食いしたら。
ここは15万かな、あれだけ高級品を注文したら。いや、もっとかな。以前新人紹介のダシとして行った店は２人で１２万だったもんな。
日本髪の似合う美人ママが一階まで下りて見送り、そこでタクシーを拾って帰ろうかと思いきや、ふと２人組がこちらに向かって言う。
「松木専務！！じゃ、今度は私の店で・・・」
いやな予感がした。
又、松木専務がマゴタ君の顔を見ている。
来てくれ、ついてきてくれ、というサインに見えた。
そこで「今日はもうないよ、恐喝の話は出ない、酔っ払っているしね、だから私はもうタクシーで帰るよ、眠くなっちゃったし」
と囁いたが腕を抱かれてそのまま次のクラブへ徒歩でふらふら移動していった。
大阪と銀座で二店舗かそれ以上のクラブを営業展開する会社から何かを頼まれた２人はまだ本心を明かさない。
私を偵察するならもう十分な時間がたっているではないか。
しかし深夜まで付き合う事にした。 あ〜眠い。
そこで三人はまた経済関係の話はしているんだけど、大阪から持ち込んだ話の目的を単刀直入にしない。
いつしか私の警戒心もとろけてしまったが、松木専務は相変わらず笑顔ながらも心は緊張している。
大阪の事務所で散々怒られた記憶が恐怖心として残っているんだろう。
そう思うと哀れに思えてきた。
また二時間経過、ついに0時を超え、１時頃にお開きとなった。
もう、こんな付き合いはごめんだ。
友人の困りごとだから報酬をもらうわけでもなし、恐喝話は出てこないのでネタにもならない。
天ぷらが食べたけりゃ自分で来ますよ。
酒と美人に囲まれながらゆるいソファが染みついて、
なんだか身体がなまけてしまう。
タバコも２箱、多過ぎ。(-。-)y-゜゜゜
出れば、
EVホールの照明がやけに明るい。
７時間飲み続けているので双方とも、既にかなりの酒量。
大阪の若者２人の顔を見るのもこれで最後だな。
ところがタクシー探しの歩道で２人組は専務にこう言った。
「今日は有難うございました。私の店まで付き合い頂きまして。じゃ、次回は佐川のもらったさん（村田さん？）を交えてお話しましょうよ。」と。
笑顔で返す深夜の銀座。
なんだこりゃ、？？何をもらったのかちっとも分からんぞい。バレンタインのチョコだかバランタインの１２年物なのか、なんかもらったような・・・うぃー(._.)
明け方に帰宅して、吐きそうになりながら歯ブラシして、そっと寝室に入れば布団の中から女房が顔を半分出しながら「うるせーしずかに寝ろ、何時だと思ってんだ！！」
って、どっちがヤクザだか、どこが事務所か、ますます？？？の一日になってしまいました。
次回、それは「もう無い」、
と、確信しつつ寝床に入りました。(-_-)zzzこの日は終わり
続きは後日アップ