腎臓結石みたいな・・
子供の頃母親に連れて行かれた霊媒能力者のおばあさんに気を入れてもらいながら言われた言葉「この子は内臓は丈夫だねぇ」をまだ覚えているマゴタ君は少林寺拳法で鍛えた屈強な肉体に自信を持ち続けながらも既にアラカンになっていた。
とはいえ、現役の頃はアッパーが決まった瞬間に肉離れ、二塁ベースを蹴った時の仙骨捻挫、銅蹴りの際に右足親指の皮が吹っ飛んで神経が剥き出しになった事などの激しい運動による外傷は別として、風邪を拗らせて一週間入院した事件を除けば30年間虫歯と痛風以外では病院に行ったこともなく、交通事故も経験が無かった。多少太り気味だがメタボも意に介せず飲酒喫煙肉食で人生を謳歌していたのである。(^o^)<BR>
しかしいつまでもそーはいかないのが人生。
とある深夜二時ごろ、背中の左側に激痛が起こり目が覚めた。
じっとしていればなんとかそのうち収まるだろうとシカトしていたが痛みは益々増すばかり。
その辛さは痛風並み。尋常ではない。
ついに眠ってやり過ごす方法を諦めるしかなくなり、起き上がって水を飲み、その後もベッドの上で正座したり深呼吸したり、足首を揉んだり、三点倒立したり、ヨガのポーズをしたり、柱に背中をぶつけてみたり、腹筋運動したり、腕立て伏せしたり、うつ伏せになったり・・・ありとあらゆる方法で脱却を試みるも、とにかく何をやっても痛みは治まらない。
のたうちまわる、とは、正にこの事を言うんだ、と自覚。(−−〆)<
一時間あまりもベッド上で七転八倒が続き、ついに、「これは異常だ、原因不明、ならば病院へ行くしかない」と決心せざるを得なくなったが何せ深夜なので外は真っ暗。
夜がしらけ始めたころに救急車を呼んだ。
背中の痛みで呼吸すら浅くなり、酸素不足気味。サンダルを履いてやっとの思いで道路へ出ると、ピーポーピーポーの音がけたたましく聞こえてくる。早朝ゆえ、近所の方々の安眠を妨げているのは申し訳ないが勘弁してくれ＾
マゴタ君の家を近づいてきた。白いヘルメットに合図をして「ここですよー」と手を振りたい気持ちなのだがその元気も無い。
白い救急車が赤いランプを天井に点灯させながらそろりそろりと忍び寄る様に近づいてきた。早朝による近所迷惑に気を使ってか、依頼人を見つけるや直ぐにピーポピーポを止めた。
車のドアが開いて白衣に身を包み、マスクをつけた救急隊員が降りてきて「大丈夫ですか？」と声をかけてくれたが大丈夫じゃねーよ、あまりに痛いから呼んだんだよ、と言いたかったけど、声が出ないくらい痛いのでただ頷くだけしかできないもどかしさ。>
背中が丸くなり、息も絶え絶えの人に大丈夫ですか、って、そりゃないだろー、と八つ当たりしたい気持ちを押さえつつ救急車のうしろの扉から促されてステップを上がって乗り込む。
「ベッドに寝ますか？」と勧められたが痛くて横にもなれない。寝台に付いている鉄の外柵に両手でしっかりしがみつき、呼吸もままならぬ状態で病院へ運んでもらうのだが、無線であちこちに連絡を取っている声がむなしく聞こえるだけで「早くしてくれー、」と叫びたい気持ち。症状により対応出来る病院が異なるので各病院救急担当と最適な対応を選んでくれていると思うのだがその時間があまりに長くて「もう、どこでもいいからー」と叫びたい気持ち。
しかしこちらとしては白衣の天使（みたいには見えないおじさん救急隊員）しか頼りに出来ない弱みがあるので我慢、我慢、その連続。
その間もずっと脂汗が滴り落ちる中、息も浅くて寝台に掴まっているだけしか出来ない。実に哀れな光景で、こんなところをペットの犬に見られたらペロペロ舐められたりして日頃の鬱憤をはらすべく犬にやりたい放題されちゃうかも・・という幻想を抱くぐらいの無抵抗状態。
しかし、アブラアセっていうのは顔の面にへばりついてなかなか滴り落ちてこないものだね。落ちないで停まってしまうのです。(?_?)<
やがて受け入れ先の病院が関東西北病院と決まり出発進行。
再びピーポピーポとサイレンを鳴らしながら進む。
こんな車に一体誰が乗るのだろう、と日頃から不思議に思っていたが、正に自分が乗るハメになるとは思わなんだ。迷惑をかけてしまうな、皆さんに、と思う反面、一刻も早く病院へ着いて欲しい、この痛みを何とか解消してくれないか、と祈るばかり。
ゆっくり動きだした救急車は天井が高くてサスペンションも良いのだが、安全運転するので苛立つ。
パトカーみたいにぶっ飛ばしてもらいたい。
交差点では赤信号の場合でも突っ切ればよいはずなのだが、一旦停止して左右を確認し、助手が「救急車直進しまーす。」とスピーカーで呼びかけた後でないと踏切内に侵入しない。触診はまだだよ病院でやるんだよ、今は道路なんだから直進だよ、左右確認なんかいいから早く進めよ、と心の中で叫んでも安全運転義務遂行の姿勢は変わらない。次の信号でも一旦停止している。 イテテテー(T_T)/~~~
こっちは痛いんだから、もっとスピード上げろよ、普段自分が運転している時だってちゃんと警報が聞こえたら路肩に寄せて通してあげてるでしょ、今度ばかりは俺の番だよ、おい、そこの車、モタモタしてねーで早いとこどいとくれ、(-_-)/~~~ピシー!ピシー!と思っても口には出せない。
あ、今度は踏み切りだ、運転手は一旦停止して指差し左右確認してる、こんな早朝じゃ、チンチン電車なんか来ないから止まらないで突っ切って欲しい一気に行けー！、ボケボケすんな、こっちは優先通行権があるんだぞー、自信をもってドンドン行けー、何を躊躇しているんだ、もしかして安全運転配慮義務っていう理性を使ってる？そんな場合じゃないんだ俺は痛いんだからな、と後ろから発破掛けたい心境。
し、しかし、なんと、確認終了間際に突然踏切の警報器がカーンカーンと高い音で鳴り出したではないか。
運転手さんは即座にサイドブレーキをかける。
そ、そ、そんな馬鹿な、さっきまで鳴って無かったのに：・・(-_-;)
遮断機が泥亀の如くゆっくりと降りてきた。長い時間をかけて降りてきて腰の高さ当りで上下にしなっている。ゆらゆら。
しかし電車は来ない、いくら警報器が虚しく鳴らしても人通りも無い中で意味が無いじゃん、と言っても電車優先制度は急に変わらない。
電車は白バイやパトカーや救急車よりも偉いのである。
だから未だに夢の職業と聞かれれば、それは電車の運転手です、ときっぱり答える。
一秒、二秒、３秒・・・と寝台の網に両手で捉まり脂汗をたらーりたらーりと流しつつフロントガラス越しに電車が通過するのを待つ。
いくら救急車優先主義を訴えても、それで電車が止まる事は無い。チンチン電車の踏切のバーである黄色いスローガンにも、「横切るな、電車は急に 止まれない」という俳句みたいなのが書いてある。
そもそも病人などという弱者に制度改善提案権無し。
やがて長い時が過ぎて誰も乗ってないチンチン電車はガタンガタンと左右に揺れながら踏切を通過していった。
実に虚しいな、誰も乗ってないのだからそっちがとまれよ、こっちは急いでいるんだからな、と電車に文句を言いたい気持ちなんだけど、理性ある救急車はそんな事を聞く耳持たずに無言で坂道発進みたいにゆっくりと渡る。なんだかわざとゆっくり走らせているんじゃないの？とばかり焦る気持ちをあざ笑うかのような安全運転で、それには閉口した。
道路は早朝ゆえ閑散としているが右折左折でやたらと乗車時間が長く感じられたが何とか無事病院の裏側である救急センター入口、ってところに到着。
促されてそそくさと裏口から入る。正門は勿論誰もおらず。
陽もだいぶ登ってきて明るくなったがマゴタ君の苦痛にゆがんだ顔はまだ険しい。
白衣の若い医師がやってきて、「とりあえずそこのベッドに寝ていて下さい。エコーしてからレントゲン撮りますから」というので痛みをこらえつつやっとの思いで寝台に上がる。
急患専用の部屋は広いためか寒い。
救急隊に別れを告げ、寝台に横たわったまま、ついに長い時間を掛けて得た安心感のせいか、いつしか寝込んでしまった。
しばらくほったらかしにされた後、スタッフの方が足早に近づいてきて「あ、すいません、寒かったでしょ」と言って毛布をかけてくれた。
それでそのお陰で少し暖かくなってまた寝込んでしまった。
実に快適な安眠。(-_-)zzz
また、しばらくほったらかしにされた後で医師が傍らから覗き込むように痛みの具合を尋ねた後でまたどっかへ行ってしまった。
おいおい、みんな忙しいんだな、眠らずに働いているんだもんな。
それで、やることもないので天井を見つめている間にいつの間にかまた寝込んでしまった。
また、しばらくして、医師がやってきて「そいじゃ、エコーで診断しますからね、どっちが痛いのですか？」と聞くので左の背中だと答えたが全然反映しないので右の方にセンサーを当てているので思わず「先生、違いますよ、痛いのは左の方ですよ、いくら痛くたって右と左は間違えないですよ、何しろ一晩中逆立ちしたって痛かったのですから」と言うが、何も映らず、とにかく犯人が見つからない。レントゲンも中止。
で、座薬の痛み止めをもらって近くの診療所へ行け、という指示だけで、あえなく帰宅することになった。
病院の入口には既に患者さんらの列が出来ていた。
帰りのタクシーの中でふと気がついた事は病院の寝台に横たわったまますぐ眠ってしまった事である。その瞬間に痛みがすっかり取れていた。
おー、正に身体を治してしまう神様がおわせられるところかな、病院というところは。
それにしちゃ、原因が不明、病名も無し、じゃ納得できない。
疑問が晴れないのはいかにもキツネにつままれたような雰囲気で心が落ち着かない。
しょうがないから取引先の医師会に電話して紹介してもらった。
それは泌尿器科だ、という。
え、？？何？ ヒニョーキ科？
なんじゃそりゃ？誰が行くのか、と診療所の前を通りがかるたびにいつも不思議に思っていた場所。
で、行ってみたら高齢の先生がうしろからひざ蹴りくらわして「痛くないですか？」と聞くので「ぜんぜ＾〜ん、平気」(^^♪
最後には山のように薬をもらってしばらく安静にしておいてくださいという言葉を最後に一度も訪れる事は無かった。
薬は一つも飲まずに捨てた。痛みさえなくなりゃこっちのもんだ。＼(◎o◎)／！
原因と病名は未だに不明だが多分、腎臓結石ではないかと推測される、という結論が我が家族の夕食会議における一致した見解であった。
消えた石は出てこない。ということは・・
しかし、あの病院の寝台にはきっと治療の神様が張りついていたのだろう、と思う。
それにしても人騒がせな長い一日が終わった。
何も得る事が無い一日もあるんだな。