見知らぬ相手との遺産分割協議交渉１

後妻である高齢者が相談に来た。連れの女性は姪子さんとのことである。

寂しそうで、困った顔をしているので話を聴いた。

夫が死亡し、わずかな貯えがあったことが判った。
その預金を解約しようと思って郵便局へ行ったら預金名義人の出生から死亡まで連続した除籍謄本と法定相続人の戸籍抄本並びに印鑑証明書を提出せよ、と言われたので言われるままに揃えたところ、なんと夫はずっと昔に他の女性と結婚していたことが判明し、さらに２人の女の子がいることが判ったという。
その見知らぬ２人から実印を押してもらい、相続分を放棄してもらわねばならない。
一体、どうやって交渉したらよいのだろう？
全くその２人の子のことは夫は口にしていなかったのである。ﾄﾎﾎ

「まぁ、そんなに落ち込むなよ、なんとかなるさ、お金の話なんだから」となだめてみるが解決方法を思い出すのに時間がかかる。過去３０年の経験からこのおばあちゃんにぴったりのケースや近似ケースを思い出すのだ。その間、死亡原因や生活状態などの現況を聞きだしメモを取る。依頼人と波長を合わせるためだ。家裁へ提出する書類作成の資料ともなるので時間をかけながらちゃんと聞き出す。敵を知り己を知れば百戦危うからず、とあるように、先ず依頼人情報収集と集約化は必須なのである。

死亡から半年経ているだけなので記憶は新しく、ボケていない方なので意識はしっかりしており司法書士の説明も理解できることについて得心した。

そこで、先ず、葬儀参列者名簿を取り出し、少しでも夫の過去を知ってる人を訪ねてみるべきだ、と教えた。

名目は個人的に「偲ぶ会」。持参するは手土産のみでよいから私のお勧めを聞いて思い立ったら今すぐ行動しなさい。

書類不備のまま、郵便局を責めても無駄です。
法定相続人全員の実印と印鑑証明書が揃わねば合意解約は出来ません。
後日別の相続人が払戻請求してきたら郵便局も二重払いをしなければならなくなるから困るのですから。

でもどうしても交渉がこじれたら、１部解約の訴訟をするとか、いやその前に遺産分割調停の申立てをして法定相続分の主張をすればよいのですよ、自分で出来ますから書類だけ作ってあげます。多分その方が合理的です。

最後に
お金の問題はいずれにせよいつか必ずどうにかなるのでご安心下さい、と応えた。


これを聞いて妻はほっとしような顔で事務所を後にした。

身内には隠していても、いつかどこかで気が緩む相手がいるものだ。その人を探せ！先ずは情報を固めよ！


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妻は一箇月かけてそれを実行したようで、若干の情報を携え、戸籍の附票を得て住所を調べたうえで再度マゴタ司法書士事務所を訪れた。

マゴタはタイムスパンが良好なウェーブを描いているからこの案件は大事には至らない、、この依頼人は高齢だが礼節をわきまえており無理をしない、連れの姪御さんの態度ともマッチしており穏便解決で十分行ける、と理解した。

マゴタ「で、どうでした？相手方の２人の相続人の暮らしぶりや、お父さんと別れた後の交信とか、年賀状とか、・・・何でもいいから話して下さい」

依頼人「長女の方は世田谷で無事に暮らしており実家は資産家のようです。もう一人は茨城県に嫁いでいるようですが、誰も知っている人はいませんでした。勿論、音信不通状態なので葬式にも４９日にも呼んでいませんから判るはずもありません。でも、夫が子供二人を残して離婚するとき、かなり借財をこしらえて資産家である前妻の実家に面倒をもらっていたことが判りました。飲み友達から聞き出すことが出来ました。夫は昔、婿養子に入ったけど、面白くないことが多分沢山あったのでしょう。憂さ晴らしのために飲み歩き、遊び歩いたためにこしらえた借金のようです。だからきっと前の方とはつらい別れをしたと思いますが２人の子供には罪がないんです。上の方がまだ小学生だったし。だけど私も年金暮らしでお金が欲しいのです。お墓もまだ買ってないので骨は自宅に置いてあります。毎日それを眺め一緒に寝ているのですが、なんだか寂しくて、情けなくて、何でこうなることを知っていたのなら遺言を残してくれなかったんだ、と恨んでいます。私は半分以下でいいから二人の子供から実印をもらえるようにしていただけませんでしょうか・・・・・このまま預金証書を持っていても一銭にもなりませんし・・ｼｸｼｸ」

マゴタ司法書士は、さて、どうやってこの方を救おうか、考え始めた。色々な手が考えられるが取り合えず一週間という時間を下さい。解決ウェーブが見えてくるまで待って下さい。その上で書いては破り、休んではまた書き出す方法でルートを探索します。そしたらご連絡しますからその内容で取り合えず手紙を出してみて下さい。普通便でよいのです、貴方の字で。中味と筋は私が考えます。



　　　　　　　　　　　　　　続く