夜這い銀行味噌汁支店開設準備室 2

支店開設準備室は正式に大蔵省(当時)から営業免許をもらっていないので自分の名義では預金も貸し出し契約も出来ない。営業して廻って獲得した新規契約は準備室が支店として認められるまで全て近くにある既存の世田谷支店名義で行なう。営業ポイントは勿論準備室と個人に付けられるのだがコンビを組んでいるので当然世田谷支店のスタッフと定期交流しなければならない。どんなにインターネット社会が発達しようとも潤滑油としての飲み会はどの業界でも必要なことだ。
(^O^)/C□☆□D\(^_^ )カンパーイ!
また、カウンター内部に入って事務処理をしたり応接室や設備も使うことになるので同じ看板を背負って営業活動をするという仲間意識が自然と生まれる。       






はず。




だが、





生まれないのである。

何しろオープンすれば既存店のエリアを分けなければならないし顧客も取られる事になるからだ。味方でありながらライバルともなる存在。
現場では、その立ち位置は本部が思っているほど単純には割り切れないのである。

表面上は仲間でも、テリトリーを分け与え、時には出し抜かれるので準備津の連中の中味は聖域を侵す荒らしだ。突然舞い上がる嵐みたいなもの。
そんな意識では新規出店は難しいのである日世田谷支店長と準備室長が話し合って連携歓談合同パーティーを近くのレストランで開催することになった。選ばれたレストランは世田谷支店が大量に金を貸し込んで株や提携ゴルフ場会員権を買わせた先。株は値が下がり、会員権は紙くず状態になっているためかレストラン経営は順調なのに銀行への支払いが時々滞っているので時々利用してあげなければならないという背景があった。準備室側は新規顧客獲得のため別の居酒屋を攻めていたので方に誘導したかったが何せ多勢に無勢、世田谷支店の40名に対して準備室は女性パートさんを含めて7人しかいないので既存店の提案になびくしかなかった。

「水曜日の夕刻は毎週早帰りしよう」、と営業課の壁に大きな紙が貼ってあるので準備室側もそれに同調した。とはいえ、早帰りスローガンの隣には営業成績が棒線グラフ状として貼り付けてあり、各営業マンごとに赤いマジックインキで毎日の成績が塗り加えられていくので気が気ではない。結局毎週11時の終電に間に合うぎりぎりまで残業してしまうことになる。異常なほどのサービス残業時間だから、体力がない行員は発病したりノイローゼ寸前までに陥って次々と出世レースから脱落していく。支店長とはかくなる激戦を何十年間も乗り越えてきた男なのであるから素晴らしい。

会場となるイタリアンレストランには7時半には全員集合した。
さながら討ち入り前の47士の結束集会であった。

乾杯グラスの前で世田谷支店長が挨拶をして団結と一層の発展を宣言、次にマゴタ準備室長が「支援をよろしくお願いします」、と結び宴会が始まる。両者の各担当が相互に会話できるように支店と準備室担当者は交互に座るよう座席指定されている。
世田谷支店長の配慮により綺麗どころの総合職女子行員が準備室長の両横に配置され、互いにワインを注ぎあって最後まで冗談を飛ばしながら楽しく過ごし、歓談会は約二時間で終わりを告げた。
~(^◇^)/ギャハハ





ところが・・・

数日後、東京本部の法務監査室からマゴタ準備室長が呼び出されることになってびっくり仰天した。
しかし、反省してみれば、はたと思い当たる節があるからだ。
叩けばどこかにほこりが出てくる金融の世界

お客に配る媒体品の購入個数と配布個数日誌を付け忘れている室員がいないかどうか、営業日誌がデタラメだと言うのか、お客の不動産情報をとるため司法書士に払った領収書が日付け順に編綴されていないか、計画通り顧客開拓が進んでいないと叱られるのか、この準備室に転勤してくる前の支店でセクハラしたM君がまたここへきて女子行員のお尻を触ってしまったために彼女に苦情を言われ、仕方ないから夜半までシクシク泣かれたけどあれは確かうまく説得したしMにもこんこんと説教したからあの件じゃないと思うがやぱり訴えられたのだろうか?それとも予算科目が合わなくなってしまい出入り業者の司法書士に架空の領収書を書いてもらったことがバレたのか、まさか顧客の預金を勝手に引き出した奴がいるんじゃないのか?とか色々考え、他の室員にも思い当たる節がないかどうか、一人一人呼び止めて毎晩詰問して分析をした。
組織を維持するための苦労は誰にも理解してもらえまいと思いつつ管理職としての仕事をこなす。ヾ(;゚ロ゚)ノ ジタバタ

何しろ本部から呼び出されるということは定期報告とは異なり尋常ではないからビクビクしてしまう。ボーナス査定や出世にも影響するからだ。銀行という会社はちょっと特殊であって、10のプラス評価より一つの減点の方が遥かに重いという減点社会だけに行員はたいがい保守的にならざるをえない体質を持つ。

疚しい事をしたかどうか、毎日尋問を行なった。しかし部下は異口同音に身に覚えがないという。普段から一致協力して仕事をしているし、ホーレンソー(報告連絡相談)も徹底している。
金融関係業務だからそりゃ多少悪いこともしているけど適法ではない行為と評価されるほどの事はしていないので室長に落ち度はない、中には「室長が首になるぐらいなら私もこの銀行を辞めます」、ってなチュウケンハチ公みたいな発言まで飛び出す始末。かくもクライマックスに至り、ここに室長は清廉潔白を自他共に認められるに至り準備室内尋問予行演習は終わった。

首を洗い、パンツを新しいものに替えて呼び出し期日の朝を迎えた。
こんな心境でも朝家を出るときの太陽はまぶしく、燦燦と輝いて見えた。
すずめチュンチュン、猫ミューミュー。
「うん、いつもの通りに聞こえるのだ、あがっていないぞ、感じがいいぞ」(^o^)


new york↑


午前十時、重い足取りで本部の法務監査室へ出向く。
今まで入ったことがない本店の27階。
受付嬢に案内されてながーい廊下を歩く。(・・; ))キョロ(( ;・・)キョロッ
静かな静かな廊下の壁に2人の靴音が反響して耳に響く。
こっ、こっ、こっ。
その27階の、受付からずっとずーっと奥にある秘密の部屋に通された。
お茶を出してもらった時、なんだか緊張感で武者震いする。
この部屋はやたらと広く、天井も高いせいか身の置き所がない風に思えて手が勝手に震えながら動いてしまう。随意に動かないのだからこれはむしろ負け手というべきか。
査問される前の緊張するような空気が漂う実にいやな雰囲気の部屋だ。しかも壁には絵が一枚も掛けられていないし椅子も硬くて袖がないので背中の筋肉がなんだかくたびれる。天井にあるエアコンの噴出し口から流れ出るかすかな音しか聞こえない。東京のど真ん中だというのにこの静けさはいったいなんだ?(^_^;)?

しばらく待たされた後、定年間近風のロマンスグレーの髪が格好よい担当者2名が書類を詰め込んだ風呂敷をぶら下げてドアをノックして入ってきた。
なんだかやけに丁寧な物腰だな、今時風呂敷なんて使っている部署があるのか?、と思っている間もなく人定尋問に応じる。
「マゴタ室長さん、今日はよくお出でになりました。お忙しいところすいません。また、今日はこの広い営業対策本部会議室しか空いてなくて。・・・・さて、先ず氏名・店名と資格を言って下さい、業務歴は何年ですか、日常の仕事内容を説明して下さい・・・・・」と手元のマニュアルを見ながら左側の人が質問し、右側の陪席みたいな人が回答内容をメモしていく。下を向いたまま全くしゃべらないから不気味だ。しかもなんだか手馴れた捜査手順のようだ。多分全国の各支店における不始末を一手に引受けて処理しているのではないだろうか・・・・


日常の仕事、スタッフの経歴や職務処理情況などを30分ほど聞かれた後、監査室の方が本論に入ると言い出したので緊張感が走る。背中に一本の線を引かれたようなみたいだ。
監査室長「実は女子行員からセクハラ疑惑があるという社内通報がありまして、内密に調査をしてたのです。独りよがりの主張も時々あるしデマのような密告も寄せられるため独自にここで調査をしてから必要と判断した時点で関係者を呼び、事情を直接聞くことにしているのです。女子行員は今や昔のようなマスコットではなく、我が行の貴重な戦力であることは貴方もご存知ですよね。その人間関係がうまくいかなければ成績にも影響するし職場環境も悪くなりますから本部としても早目に対処しなければならないのですが、何分にも毎日顔を会わせているので直接訴えにくい、そこでこの監査室に対して内密に苦情が寄せられる制度であることをご理解下さい。はい、勿論他の室員さんらにも一切広言する必要はありません。」

この言葉を聞いて室長は血が頭に上ってカーッとなった。┓(´_`)┏オーノ〜

んもー、Mの野郎、前の店で女子行員のお尻をさわった件は深く反省しており以後は二度としていません、とか釈明していたがやっぱりそうか、あいつが犯人なんだな、と思い、平気で上司を裏切ったことに対する報復とか社内処分をイメージした。
もう許せないぞ、転勤させる、今度の件は内緒にしてやるから出て行けと言おう。(・_・)キッパリ








そして、監査室長の言葉を遮るようにして口を開いた。「はい(^.^)(^.^)、その件なら思い当たるフシがあります、既に聞き取り調査をしましたが、M君にはウソの説明を受けました。私の突込みが足りなかったからシラをきられたのです。私の管理不行き届きのこと、ヒラに指導力不足を感じております。」と机におでこをこすり付けて謝罪した。

これに対して監査室長はすぐさま大きな声で  「バカ!  訴えられたのはあんた自身なんだよ、何を勘違いしているんだ、この早とちり目が」と答える。

準備室長「(・_。)ズリッ  ぎょえ〜〜〜〜〜なんで?????なんで僕なんですかぁ〜〜〜???:¥。、m¥#@¥_」と仰天して椅子から転げ落ちるほどのパニック。
怒髪天をつく、かと思いきや正解だと思ったことが誤解だったこと、人を責めていたのに自分が責められるはめになった立場の逆転で顔面蒼白。

(ToT)エーン
(T^T)ヒドイ
(T.T ) ( T.T) ダレカ-
T(;_;)Tオテアゲェー

頭の中は真っ白に、顔は真っ青に変化。シラガの本数はたちまち2本増加。
これにはジャングルのカメレオンもびっくりしたことであろうと思われるほどの驚き。(;゚゚)ウッ!

机を挟んで双方が、その重苦しさに言葉を継げないでいる空白の時が流れる。チッチッチッ  



後から思えば10秒間ぐらいの沈黙だったけれど、数年間無人島で暮らすぐらいの長い悠久の時間。

走馬灯のように駆け巡る思い出の数々・・・






しかし、自分には加害の意識も記憶もないのであった。
冷静さを取り戻してようやく口を開く。

マゴタ準備室長「それは本当ですか、いつ、僕が何をしたって言うんですか、教えて下さい」と。



監査室長「あの夜・・・・・」

同     「あなたは・・・・」

同    「世田谷支店との合同懇親会で・・・・」

う〜〜すっご〜く じれったい言い回し

慎重なのか自身がないのかこちらの顔色を伺っているのか・・・??

ここまで聞いても、それでも全く加害事実を思い出せないマゴタ室長であった。パニクリ状態である。

監査室長「あなたは世田谷支店長に依頼してかねてより目星を付けていた同支店勤務の女子行員2名を指名したうえ両側に座らせた上、ビールやワインを注がせるという権限外のサービスを強要し、又、転勤させるとか今の仕事からはずすなどの他の行員の事例を引き合いに出しつつ無言の圧力をかけたうえで二名の女子行員に対して愛嬌を振り撒く様強要した、この事実に間違いはありませんか?」

と、きたもんだ。

マゴタはすぐさま釈明をする。
「懇親会を合同で開催する件は合意しましたけど、ホステス代わりに女性を両隣に座らせろとか、指名したとか、そんな要求をしたことはありません。それは世田谷支店長が気を利かせてやったのであって、差し金でしょう。着席指定は当準備室が主催しているわけではないので会場へ行くまでは全くわかりませんでした。酒を注がせたと言われても隣席なのですから私だってついであげたし、えーと、それから、なんだったっけ??あ、そうか、転勤や配置換えなどは私も今まで沢山経験してきたことであって、誰でも今後そうなるんだから、っていう一般的な内容でしたよ。権限といったって私にはそんなものありません、それは人事部が決めることですからそれこそよその支店のことに言及することはありません。」

監査室長はそう言われてもすぐさま引き下がらない。何しろ被害女性に対して報告をしなければならないからもっと筋の通ったシナリオを作りたいのだ。
「あなたは用もないのに時々世田谷支店へ来て女性を物色していたのではないか、と訴えの内容に書いてあります。僚店とはいえブラブラしているのはそのようにしか思われないということをどう釈明しますか?」

これまた愕然とする憎悪感が漂う質問だったのですっかり気が抜けてしまった。?(゜_。)? チンプンかんぷん

マゴタ「そ、そんなことはありまっひぇん。ひつもしごろをひてまひたほー」


あー、もうダメ 腰がフラフラです。頭もフラフラです。 ( ^〜^)ヨボヨボ

忍耐の限界を超えそうです。  ぐやじぃーーッ!o(><;)(;><)o

胃が痛くなってきました。

という表情を見取ったのか、監査室長の提案でその日はこれでお開きになり、後日釈明書を提出することになりました。

その日は準備室に帰る気にもなれず、日比谷公園でブラブラし、独り寂しく映画を見て、酒を飲み、深夜帰宅となりました。

一ヵ月後、日頃の誠実な態度が勤務評定され、部下や同僚、上司からも「それは女子行員の過剰反応と誤解である」という始末書が提出されたうえ、世田谷支店長の説得に応じた本人からの嘆願書が提出されたので見事疑いが晴れて無罪放免となったけど、根っからのポルノ好きは専らの評判だったのでその後も誤解されやすい性格は相変わらず直らないのでした。


to be continued



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