会社乗っ取り合戦２
その数十日の間、港区内にある某会社の登記簿謄本は滅多に取得できない状態であった。
本来、法的に人格を認められた会社はその登記事項が定められ、その範囲内で公開することが原則であり、お金を払えば登録内容に関する証明書を誰でも取得できるのに。
登記事項証明書が取れない原因、それは何故かというと、その会社は社長が亡くなるやいなや、保有株式の帰属を巡って兄弟間に紛争が勃発しているとのこと。それが思わぬ方向へと向かってしまっていたのである。
普通
現職社長が亡くなった場合、当面、早く次期代表取締役を選任し、
会社登記簿上の社長に就任登記したうえで登記事項証明書と印鑑証明書を銀行に持参して預金や手形帳の書き換えをしなければ資金ショートしてたちまち倒産してしまうから活躍している会社の代表者変更登記は急がなければならないのであり、４９日などは待っていられない。
未亡人や残された家族は故人への思い、参列してくれた関係者の暖かい気持ちにふれつつ、大切な人を失って泣きたい気持ちを抑えながらも事務手続きに明け暮れる毎日が続く。(;_;)ｳﾙｳﾙ
葬儀を終えた翌日、月末の手形を落とすための融資手続きをしに銀行へ行くと、新代表取締役の印鑑証明書と登記簿謄本の提出を求められた。葬儀にも来てくれた支店長が対応してくれたので何ら問題も感じずに議事録を作成し商業登記を申請するため孫太司法書士事務所を尋ねる。
孫太「先日はお気の毒でした、現職の社長だけに残念です」(;_;)ｳﾙｳﾙ
長男専務「えー、でもいつまでも悲しんではいられません、葬儀は終わりました。今、ホッとしているところですが、何せ資金繰りが厳しいものですから、直ぐに印鑑証明書が必要だと銀行の方に言われて、それで早速ここへ来ました。必要書類はなんでしょうか？」
孫太「代表者変更の場合には貴方だけではなく、取締役全員の市区町村長発行に係わる個人の印鑑証明書が必要ですよ。」
長男専務「はぁ、ヒラ取締役もですか、では揃えて参ります」^^;
しばらくして、役員全員が個人の実印を押した取締役会議事録を持参して再度訪れたので孫太司法書士は登記を申請し、数日後に完了した。
長男専務はいそいそとその書類を銀行へ届けて通帳や手形帳の名義を変更して、無事月末を乗り切った。ρ(^^
)ﾉ ｻｧﾄﾞｰｿﾞ!!
ところが月初になり銀行から更に追加の印鑑証明書を要求されたのでそれを取りに法務局へ向かった新社長（＝旧長男専務）は法務局職員の説明を聞いて驚いた。
「貴方の会社は今何らかの登記が申請されているので受理されるか却下されるまで証明書の発行には対応できません」
新社長「(･_｡)ｽﾞﾘｯ そんな馬鹿な、代表者は俺だよ、この前、一ヶ月前に父親が亡くなったので自分に名義変更したんだよ、それをすぐに変えるわけないだろ、常識で考えてみろよ！」と息巻くものの、印鑑証明書は発行されなかった。(/_;)ｼｸｼｸ
アワクッテ孫太のところへ。
孫太「(~ﾍ~;)ｳｰﾝ そりゃ、やられたな、多分、早すぎるもの」
新社長「何を、やられたとかおっしゃるのですか？早すぎるってーのは？」
孫太「貴方の弟だよ、ほら、フーテンみたいなブローカー崩れの」 「いつか先代社長も言ってたでしょ、二番目の子は経営者気取りのダメな男だが、馬鹿な子供ほど可愛いものはないですなー、って。」（*'ω'*）<
「マジ！」
新社長「聞いてませんよ、そんな話。冗談じゃない、今の会社を作り上げてきたのは俺と親父ですよ、ここ数年でやっと資本金も経営規模もいっちょまえになったんです。昔は本当に貧しい街中の自動車部品メーカーに過ぎなかったのですが。景気と不景気の循環経済にもまいったけど、ま、なんとか力を合わせてここまで乗り切って来ました。ところが弟は学業成績も悪いし夜遊びと女遊びに明け暮れるほど素行不良のうえ社会に出ても反省なんかひとつもしないで、いくつも会社を潰すヘボばかりで・・・・エート、エート・・うちの従業員からも全く信頼がないから、オヤジが資本金を出してあげて新会社の社長に祭り上げ、体よく追い出したんですよ。だからこの会社は俺のものなんですよ、判ってくださいよ。それがどんな具合で今更ノコノコ出てくるんでしょうか？」
孫太「恐らくブローカー仲間から借金して首が廻らないようになっているんでしょうね。それにそそのかされて多分実印も印鑑証明書カードもその仲間に取られていますね。それでそのブローカーらの不良グループが現職役員全員解任の登記でも出しているんじゃないだろうか？」
数日後、果たして、孫太の予感は的中してしまった。我慢していた緒が切れたように、マチキンがアホ次男の名義を利用して会社乗っ取り計画を実行に移したのだ。登記内容はアホ次男一派を役員とし、長男一派を全員解任する内容であった。既に印鑑証明書も交付されていた。
それだけではない、数日後あたりからボチボチとマチキンから照会電話が入った。
マチキン「もっと御用はないですか、１０００万円までなら貸しますよ」とか、
「代表者事項証明だけじゃ危ないので会社の全部事項証明書を履歴付きで取得したら最近先代社長が亡くなって、その後任に別の人が就任されたのですが、全員解任された、と記載されています。解任とは穏やかじゃないですね、一体、何かあったのですか？」
などという内容であった。
既に多数の手形がばら蒔かれてしまっていた。金融業者の間ではすでに事件ものとして一躍有名になってしまったらしい。(-.-")
長男「やばい、このことが銀行に知られたら来月の手形の枠を減らされてしまうかもしれない」(ToT)ｴｰﾝ
そこで慌てて今度は自分を代表取締役とする議事録を作成して役員変更登記を申請。
乗っ取り合戦が始まった。(^_^;)＼('_') ｵｲｵｲ
粟食ったのは次男乗っ取りグループ。派手に資金繰りと称して手形屋から仕入れておいた手形帳を使ってマチキンから金を引っ張り出そうとしていた作業がたちまち行き詰まったので、長男一派を攻撃する方法へと転換した。
そして登記申請書閲覧をして代表者を再び長男一派に戻されたことを知った次男一派はその登記申請代理人司法書士事務所を訪問、５〜６人の不良中年を組織してドアをあけるやいなやいきなり写真を取り捲り、ドスの効いた声でハンチング帽子の男が
「私は次男社長の関係の者だ、今般の不正登記を暴くためにやってきた。おとなしく本当のことを言え。さもなければ警察へ訴えるぞ」と恫喝。
(メ▼。▼)y-~~~おら〜
マゴタは感じた。５人併せりゃ前科１０犯は下らないな、と思えるほどの悪人が警察に訴えるだと、そのツラさげてよくそこまで言うなぁ。カメラを向けているあのチビ男の目つきの卑しさ、目先のお金に心を揺さぶられたのか事務所の金庫の方をチラチラ見る目つきのヨレヨレ柄スーツのシラガ男、警察の取調べに耐え切った経験を持っていると思われる口の重たい男、顔色がすっかり土気色している肝臓病みたいな男、どれもこれも貧相で物騒であり、こりゃひどいチームだ。彼らにしたら、アホ次男をカモにして会社から相続分相当のお金を引っ張り出し、既にアホ次男に貸し付けている高利で消してしまい、生涯しゃぶれるだけしゃぶりとろうとしているんだな、多分。最大のチャンスが巡ってきたというわけで、必死なんだな。あ、そうだ、不動産の名義はどうなっているんだろう、もう既に法定相続登記されてしまっているかもしれない。根抵当権は会社の資金繰りにとって大切な担保。先代社長の死亡から６箇月以内に合意登記をしないと確定してしまう。確か債務者は法人だけでなく個人名義で借りて会社へ運転資金として貸し付けている融資もあったはずだ。やばい、権利登記対策も講じてやらないと大変なことになりそうだ。・・・・
_________________＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿双方から繰り返される会社乗っ取り合戦に対応する行政上の手あての必要性が叫ばれていた＿＿＿＿＿＿＿＿＿
そこで今ではこのように手当てされた。
（平１５．５．６、民商第１，４０５号民事局商事課長通知・登研６６８号４７頁〔解説付〕、月報５８巻７号２９５頁）
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役員全員の解任を内容とする登記申請があった場合の取扱い
《会社の役員変更の登記》《株式会社の役員変更登記の方法》《法人の役員変更の登記》
１ 会社又は法人の役員全員の解任を内容とする変更登記の申請があった場合には，速やかに，当該会社又は法人に適宜の方法で連絡する。
２ 解任されたとされる役員のうちのいずれかが申請書又は添付書類の閲覧を求めた場合には，届出印又は運転免許証の提示等の適宜の方法により，登記簿上の役員本人又はその代理人であることを確認した上，閲覧に応じて差し支えない。仮処分申請のため必要である等の事情が認められる場合には，適宜，申請書等の写しを交付することも差し支えない。
３ 登記完了前に，解任されたとされる代表者から，当該申請に係る申請人が代表者の地位にないことを仮に定める内容の仮処分決定書等が提出された場合には，当該決定書等を本件登記申請の審査の資料とすることができる。
４ 登記完了後に，解任されたとされる代表者から，申請書にその者が代表者の地位にあること及び登記に係る代表者は代表者の地位にないことを仮に定める内容の仮処分決定書等を添付して当該登記の抹消の申請がされた場合には，他に却下事由がない限り，当該登記の抹消の登記をすることができる。