ただ、ひたすら冷や汗だけが吹き出てくる。(-.-")一筋、消えては、また一筋と。Ｂはテレビの前で棒立ちになりながら次々と画面に映し出される火災現場、崩壊した三宮のビルや庁舎、屋根の落ちた神社、陥没した道路、断裂された橋桁などの映像が飛び込んでくる。昨晩乗り込んでいたらどのホテルに宿泊していたのか、世田谷に帰ることが出来るようになるのはいつなのか、あるいはもっと悲惨に死傷していたか、罹災は免れないとしても実に色々な災難シーンが自らの肉体を通じて脳裏をよぎる。見ているだけでも罹災者だ。テレビ画面にはやがてあちこちから煙が立っている町並みを映し出す。火災だ。大都市だけに風の向きによっては大火災になる。地震で倒壊しなくても類焼は免れない家も相当増えそうな予感がする。ボーっと立ちつくしながら目線を離す事ができない。(ﾟﾛﾟ)ｷﾞｮｪ
やがて気を取り直して階下へ向かい、大きなテレビで再度チャンネルを変えながら神戸の震災の模様を見る。時を重ねる度に噴煙があちこちから立ち昇り、先月見た神戸の美しい光景との様変わりに驚愕しながらも死者２００名突破のニュウスに驚く。時が過ぎるにつれて死傷者数の報告は増すばかり。(ﾟ◇ﾟ)~ガーン報告や連絡すら機能していないことが推察できる。Ｂさんはいつしか家屋立ち退き交渉の事を忘れ去っていた。これはおおごとだ。何とか支援や救助をしてあげなければならない。
朝食のパンをほおばりながら尚もテレビの前に釘付けとなり、１０時ごろになってようやく会社へ欠勤する旨の電話をして再びテレビ見る。一度訪れただけでは火災場所と居酒屋の位置関係がわからないからすぐ本屋さんへ飛んでいって神戸の市街地図を買って、再び自宅へ引き返した。あの、物件の近くの映像が出るかもしれないから、と、漸く自分の置かれている立場を思い出したからだ。そして年賀状を引っ張り出してきて神戸へ転勤していった友人の住所も確認する。心配この上なし。さりとて現場へ向かうこともあたわず。じっと見るだけ、しかできない、いたたまれない心境というのは実に耐え難い。o(><;)(;><)oジタバタ
鶴旗さんは大丈夫なのか？千鶴のオヤジは？いくらとぼけたバカオヤジだって、地震ぐらいで死ぬことはないぞ。と、声をかけてやりたい。しかし電話が一切通じ耐震設計しているから関東大震災クラスの被災に対しても安全だ、と広報していたはずなのにこれでは話が全然違うではないか。ただ、やきもきしながら見守ることしかできない歯がゆさばかりが波状攻撃の如く何度も襲い掛かる。あちこしで火の手があがるものの道路が寸断されているので消防車も思うように火災現場へ急行できない。ヘリコプターによる消化活動が思うようにいかない中、風向きと地図を見比べながら尚も延々と心配が続く。かくて家屋明け渡し問題などどこかへ吹き飛んでしまい、事実上その日の明け渡し構想は無期延期となった。前提条件が全く違ってしまったから。
やきもきしながらの三日目。連日の報道でひとつ気が付いた。σ(^^)郵便局の車が片側一車線になっても国道を優先通行させてもらっている映像のことである。そうだ、郵便ハガキを送ろう。安否確認優先、至急連絡されたし、と。
かくて作戦成功、どうやらハガキが着いたらしく、三日目の夜にして長蛇の列に２時間並んで電話してきてくれた。友人と鶴旗さんから。「後ろの人がまだ多数待っているから用件だけで済ませるね」と言いながらも、話したのはほんの数分だが声を聞いて嬉しかった。生存を確認することができたのでひとまず安心、その日は久しぶりにゆっくり眠った。(^o^)
１０日ほど過ぎてまだ混乱さめやらぬ神戸にも携帯電話が開通、鶴旗さんと連絡がとれた。既にすっかり震災ショックから立ち直ったＢさんはすかさず明け渡し問題を相談した。
ツルハタ「こちらは、もー大変なことになってます。あちこちでビルがペチャンコです。斜めに傾いたまま倒れる寸前の８階建てのビルもあります。でもＢさんの物件は倒壊しておりません。よかったですね。でも周りは悲惨な壊れ方をしており、車じゃ行けません。数年ぶりに原付を借りてきて走り回ってますぅ」
Ｂ「それを聞いてひとまず安心しました。で、千鶴のオヤジはどこにいるのですか？」
ツルハタ「多分、避難所でしょう。みんな、そこしか行くところがないから。でも大勢いるし公園もテントだらけですから大声をかけても絶対見つかりませんよ。どないしましょー」
Ｂは、そりゃそうだなぁ、困ったなぁ、と思いながらも冷静にアイデアを出す。先ずは質問から。
Ｂ「ところで冬の神戸っていうのは世田谷区からみると暖かそうだけど、本当は寒いのでしょ？夜は氷点下まで下がるんでしょ？でもテレビを見ていると皆さん厚手のコートやジャンパーを着ているけど、あれはどうなっているの？どこかで買ったのかなぁ？」
ツルハタ「いえいえ、お店はまだどこも開店しておりまへん。皆さん壊れかかった家に命がけで侵入して自分のものを持ち帰っているんです。(/_;)ｼｸｼｸ なかには他の家に入って泥棒している者もいるそうです。地元の人はそんなことよーしまへん。よそもんでしょうね、きっと、ひどいやつらだなー。で、また必要なものを取ったら避難所へ帰るんです。余震が怖いし倒壊寸前の家だから中で寝ることはでけまへん。」
Ｂ「じゃ、千鶴のオヤジもきっと時々帰っているのですね？」
ツルハタ「あのマンションは無事ですから多分様子を見るため時々立ち寄っているかもしれませんし、遠くの親戚を頼って神戸を既に脱出しているかもしれません。明け渡ししてもらうにも運送屋さんがおりませんし、引越し先の店舗も見つかりませんし、鍵も持ってないから室内には入れないし、第一どうやってあのオヤジさんを探せばいいんでしょう？」と呆然とした様子。
Ｂ「こちらからは当分そっちへは行けない。だから今後は携帯電話で指示するからよーく聞いてね。ええかい？先ずカレンダーを一枚引き剥がして裏面の白いところにマジックインキででっかくこう書いてくれ。通告書。本物件は家賃長期未納により契約解除されました。よって明日午前１０時強制立ち退きを開始しますので事前に必要な家財等を取りに来て下さい、とね。そして日付けと私の名前を最後に付けておいてね」
鶴旗「はい、わかりました。φ(｡｡)ﾒﾓﾒﾓ でもそんなんで何とかなるんでしょうか？」
Ｂ「なるなる、ほんで、若いのを2人ばかり応援頼んで一気に明け渡し作業を完了させてくれ、ぼやぼやしているヒマはないでー」
そして翌日午前１０時ぴったりにオヤジはのこのこと避難所のテントから這い出してきた。予想通り毎日様子見に来ていたのである。仕入れもできなきゃお客さんもいない、当分退屈だからやってきたのだろう。┓(´_`)┏オーノ〜
鈍すればなんとやら、で、ある。
鶴旗さんは鍵を持っているようなフリをしながら「さ、約束の期限が来ました。部屋を開けて必要な荷物を外へ出して下さい、残りのものは契約書記載のとおり当方で全て処分させてもらいますから」と通告。(`_')ｷｯﾊﾟﾘ
オヤジは店内にある大切な包丁
とか鍋などを慌てて両手に抱えて店を出た。r(^^;)ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ鶴旗「店は壊れたも同然です。お客さんもいないし、漁港も破壊されて仕入れ
も出来ないから当分店は開けませんね。もう、鍵は要らないでしょう、返してもらいますよ。」と言いながら手渡しを受けた。それからＢに携帯電話してきた。
Ｂ「店の中の様子はどうですか？」
ツルハタ「もう、滅茶苦茶ですよ、食材は電気が止まっているためか皆、腐って店内には悪臭が漂ってます。(ﾟ◇ﾟ;)ひどい臭いです。鍋も棚も冷蔵庫もひっくりかえってどうしようもありません。ところで、室内の残置物、テーブル、コンロ、イス、割れた食器、冷蔵庫などはどないしましょう？産業廃棄物屋さんはまだ来てくれませんけど。解体屋さんはテレビでご覧のとおり大忙しでして、処理場には朝早くからゴミ満載のトラックが数珠繋ぎです。
でも壊れていない家には来てくれません。」(／･_･＼)ｱﾁｬｰＢ「隣家の状況はどうなの？」
ツルハタ「今見てきたんですけどこれは完璧に壊れてペチャンコになってますよ。幸いにもこの辺は火事だけは免れたようです。道路の反対側の一軒家もぺったんコです。材木だらけの瓦礫の山みたいです。どうしようもないですね、(ﾟ.ﾟ)?赤紙確定。」
Ｂ「よっしゃ、そりゃいいな、イメージどおりだ。他人の家とはいっても今は無人だし潰れているのなら価値がないものだな。だからどうせそれは国費で解体するだろう。政府はそう言っているから。すぐに店内の物を全て運び出してその空き地に捨てちまえ。」
鶴旗「はい、すぐそーしますぅ」 (`_´ )ゞ了解！
小さな店とはいえ３人がかりで持ち上げなければならないテーブルや厨房設備などの重たい大きなものもあり、汗だくになって急いでやったけど、明け渡しが終わったのは夕刻。冬の夕べは早めにやってくるし、結構寒い。全部捨ててしまったお陰で店内はすっかり綺麗になった。かくて自力強制執行は完了した。空き室不足による賃料高騰、避難所からの脱出を願う人のために賃貸物件は極めて貴重なものになることが見越せたのでそこまで鶴旗さんは思い切った協力をしてくれた訳だ。その後、すぐにでも開店したいという別のテナントがついたのでその仲介業務で彼も十分に利益を上げることができた。(^_^)/(^o^)／
後日のはなし。
ツルハタ「でもあんな事していいんですかね？火事場のドサクサで明け渡しやったのなんか今まで一度も経験ありません」
Ｂ「そんなもんわてかてありまっかいな」（神戸弁がうつっている）
ツルハタ「本当は裁判所へ行って判決かなんかもらってからやらないといけないんでしょ？あの頃は警察も裁判所も営業中止してたからオヤジの奴はどうしようもなかったわけですけどね。」
Ｂ「そうだよ、だからチャンスなのですよ。ピンチとチャンスには共通点があるでしょ？役所が動かないとわかったら何でもありだよ。明け渡しには判決が必要だって？そりゃ普通はそうするけどね。でもあの状況に出くわしてもまだ法だの正義だのと眠たいことを言っているようではダメだね、(~O~)ﾌｧ･･･永久に。あの時は賃借人が自らドアを開け、鍵を渡し、必要なもの以外は捨ててよい、と言いつつ、什器や備品を君らが外へブン投げるようすをずっと見てたのですから占有明け渡しの本人立会そのものですよ。それだけで立派な明け渡し同意ですよ。什器備品だってオヤジの目の前で処分したのだから承諾行為と言えます。どうせ壊れたものばっかりなんだし価値がないものだからオヤジは損害賠償もできませんし、現にしてこなかったでしょ？だから自力救済じゃなくて合意解約明け渡し、です」p(^^)q
鶴旗「な〜るほど、＿〆=(._. )ﾒﾓﾒﾓｼﾃｵｺｳ ＿〆=(._. )ｻﾗｻﾗ ところで家賃の未納分はどうされたんですか？避難者からじゃお金は取れなかったでしょ？」
Ｂ「あーあれね、ちゃんと全額回収しましたよ。娘さんが振り込んできた。どうもｽｲﾏｾﾝ、ご迷惑をお掛けして、と手紙を添えつつ、ね」
ツルハタ「えっ？本当ですか？どうやって居場所が分かったのでしょう？」
Ｂ「去年の１２月に来たとき、ほら、2人でオヤジと貴方が表へ出てお店の看板撤去の話をしに行った時があったでしょ。僕はちょっと間があいて暇だったから近くの喫茶店からオヤジが出前してくれたコーヒーのカップを片手に店内をウロウロしていたのよ。そしたら厨房の傍らに電話があったでしょう。あの古い黒電話みたいなやつ。
あそこに置いてあるメモにふと目をやると○○千鶴という名前と住所と電話番号が書いてあったのよ。それをメモしておいたわけ。ｳｯｼｯｐ(^0^)ｑ娘さんは多分新婚
なんだろうね、つい最近引っ越したばっかりだよ、あれは。隣県の住所だったから近いような遠い場所、時々お店を手伝いに来る、っていう話を僕の頭の中でミックスしたところ、ははーん、これは娘さんの新住所だな？と、ピーンと来るものがあったわけ。新婚だけに娘の旦那さんに経営ピンチ状態であることが知られるとまずいと思って、あのオヤジは連帯保証人である娘の居場所をこちらへ知らせなかったんだろう。だから一旦泳がせておいて、明け渡しがこじれたら探し出して電話するつもりだったんだ。そもそもあのオヤジはお金にだらしがないうえにウソつきだよ。賃料が払えなくなった原因を不況だなんだと言っていたけど、実は娘の結婚支度金としてお金を渡して親としての格好つけてたんだね、多分。自分さえよけりゃ人のことは後回しにするようなだらしない奴だ。契約を守らず身贔屓だけじゃ駄目だよね、人生って。」ツルハタ「でもよく払いましたね、その娘さんは」
Ｂ「あのオヤジは自分の娘の名前を店名にするぐらいの親バカだからな。娘にも同じ遺伝子が流れているんだ、と考えたわけ。だから手紙一本書いただけだよ。」
鶴旗「へー、そりゃまたびっくりですね。で、どんな内容の手紙なんですか？脅かしちゃったりしたんですかねー・？？Ｂさん、相当頭に来てたから。」
Ｂ「そんな必要はないよ。未納があります、保証人さんなのだから払って下さい、って書いただけ。親バカ娘バカチームだからね、基本的には。ま、ちょっと細工はしたけど得意になってしゃべるほどのものではないよ。そんな手紙でも真摯に書けば、それが伝わったのか娘さんはびっくりしてこちらへ電話した後ですぐ送金してくれたよ。ま、一応、世の中にはマジメな人ばっかりじゃないのでしらばっくられたりしたらどうするか、という事は考えておいたけど。勿論本当はこっちは契約書を持っていないこととか、娘さんが本当に連帯保証人なのかどうか良く分からないというこちらの事情は内緒にしておいたけど。えっ？成功の秘訣？うーん、一ついえることは、いつも複数の選択肢を思い浮かばないと交渉ごとは実行しないんだよ、僕は。何故っていうと、一つだけの選択肢で実行してもしそのルートが予期せぬ出来事などで頓挫すると、狼狽してしまって出直すパワーが半減するからだよ。すぐ法律だの正義だの、抽象的概念を持ち出すやつがいるだろ？あれじゃだめ。世界七不思議の原因を全て宇宙人の仕業だと得意げにしゃべっているようなもの。具体的に指針を示して要求しなければ相手は動かないよ。それに選択肢が複数あれば、順番に粉して行くべき単なる日程消化問題に転化するのだから、いくらでも次ぎの手を繰り出すことが出来るのね。勿論効果を狙って実行する順番は予め決めておかねばならないけど。・・・しっかしでも僕もよくやるよねー、保証人が誰かもわかんないのに全額回収しちゃうんだからﾜｰｲ＼(^o＾))／＼((＾0^)／ﾜｰｲ」