長兄はその「信用された」とおぼしき外形行為をいいことに、すっかり全ての遺産は自分のものになると思い込み、o(^o^)o ﾜｸﾜｸ得意げにもう一人の弟に対し「いいか、桐子の財産に手をつけるんじゃないぞ、退職金の事もオレが交渉するからな、それに生命保険も、マンションもだ。お前は若いんだから何もわからんだろ、黙ってろよ、横槍をいれるんじゃないぞ、えーこらー」と吹きまくり、質問する弟をまるで敵対心の表れと誤解し、即座に病院の玄関ロビーで大声を出して怒鳴り、自分だけ丸儲けの目論みを妨害されないように早くも牽制していた。死人に口なし、金も必要なし、だからおいらが使うのさ、というような感じであるがその隠蔽工作も稚拙としか言いようが無いがそれでも長兄なのでその立場を立てて弟は黙った従った。概して人間は自己利益分野が強すぎると他の分野において盲目的になるものだ。どうやら今の長兄には遺言執行者の職務報酬と相続分による所得の違いもわからないらしい。

長兄の萩雄は幼少の頃から心の動きが多少乱暴であって、誹謗中傷はお手の物、攻撃専門の性格であり、それでいてしっかり自分の弱点は隠す誤魔化す、責任をとらないでなすりつけるという性格のようだ。お金に意地汚いことも亦、親兄弟に見透かされているが、それでも欲望という電車は彼の心の中で暴走を続けてきた。その性格はたとえ妹がピンチに陥ってもそう簡単に変わることはない。心のコアは三つ子の魂なれば功徳を尽くさない限り変化することはない。両親にはそれが、いや、そこまで萩雄の全てが良く見える。上からみれば何もかもお見通しなのであるが親としては萩雄が一応長男であるから無碍に出来ず、遺産について特定や選別は出来ず、そのうちボケてしまい、決断力がどんどん減衰していったので選別的遺言書は一切残さずに逝ってしまった。親は子供に感情格差をつけられにくいのである。それですっかり味をしめたのか萩雄の性格は一向に改まらず、その両親無き今では忍法「得意の巻き」モードに入っていて、心のタガが外れっぱなし状態となり、ひとりよがりの独壇場は続いていた。仕切り屋タイプの長男である。しかも対価を計算してから行動を開始するのでタチが悪い。

そこへ降って沸いたような今回の妹の入院騒ぎだ。そんな萩雄がなんだか得意になるのは判らないでもないが、ベッドで横たわりながら過去を思い出す桐子の頭の中では、幼少の頃の思い出と何ら変わることが無い兄の振る舞いに懐疑的であって、萩雄が勝手に主張する「皆オレが面倒みるから大丈夫だ、オレを中心に家族は動け、ハンコも権利書もオレに預けろ」という言葉に対しては黙って頷けないものがある。萩雄兄は今必至にガンと闘い、それでも日に日に衰弱していく妹を看病するふりをしながら、実はその内心で
は
妹の病を心配すること＝自分の精神的苦痛→被害＝損害補填＝相続分多目要求、
という単純な図式が桐子の脳裏を度々かすめるのである。実はもし無事に退院できたと仮定しても兄の見返り要求の心がひどくなるだけじゃないのか？と、桐子にはﾐｴﾐｴだった。人間は死が近くなると人の心を見抜く判断力だけが異常に高くなる。（ﾎﾞｹﾕｸﾋﾄﾊﾍﾞﾂﾀﾞｹﾄﾞ）

桐子は入院手続などのために印鑑などを預けたものの、こんな身勝手な兄に遺産を任せるつもりは毛頭なく、度重ねて返還要求してきたけれどなんだかんだと言い逃れしているばっかりでいつまでも返さないのでついに兄を見限り、ある日、頼る人、任せるべき人は誰かというテーマについて方針を変えた。
印鑑カードを法的廃棄届けし、新たに別の印鑑を登録し、司法書士に依頼して遺言執行契約を済ませ、そして公証人に病床まで出張してもらって公正証書遺言をしたためた。これらの行為は全て萩雄兄さんには内緒で単独で行った。妹桐子の聡明なる生前最後の判断と決断であった。(･_･)ｷｯﾊﾟﾘ

ガンは無情にも進行し、桐子は帰らぬ人となり、
やがて葬儀のダンドリとなった。(｡、)ｼｸｼｸ..
そして喪主の選定。
萩雄兄さんはその時すっかりその気になっていた。亭主も子供もなく生涯独身のままで病死した桐子の後見人気取りで、主（あるじ）無き桐子の部屋に入り、電話の前で葬儀社から見積りを取ろうとしていた。
「ｳﾋｳﾋ、喪主としてしっかり葬式を出してあげなきゃいかんわい」ｳｯｼｯｐ(^0^)ｑ
その矢先、遺言執行者たるマゴタ司法書士が待ちかねていたかのように突然やってきて、「この部屋に勝手に入り込まないで下さい。手前どもが遺言書を預かっており、葬儀の喪主も葬儀社も全て桐子様から任されております。今後のことは一切私において執行いたしますので今日のところはどうぞお引取り下さい」と言う。 日＼(｀へ')この印籠が目にはいらんか！

(;ﾟﾟ)ｳｯ!晴天の霹靂とはこのことだ。萩雄はもうすっかり自分のマンションだと思い込み、故桐子の預金から葬儀代を出し、自分のお金は一切使わず香典は丸儲け、うっしっし、とばかり目論んでいただけにびっくりした。そこでこの訪問者に対して発する言葉を失い、居心地の良い場所がなくなったことを知ったのでやり場がなくなり、その危機をカバーするように突然怒鳴り散らした。
萩雄「お前はどこのどいつだ。(｀ﾛ´)いきなりやってきて、何を言うのだ。桐子はオレの妹だぞ、昔から良く知っているんだ。あいつがオレに黙ってそんな遺言書なんか書くはずがない、こうして桐子の実印も印鑑証明書発行カードもおれがずっと預かっているのだから、そんな遺言書は無効だ！！！」とたいそうな剣幕であった。＼(*`∧´)/ﾑｶｯ!!

しかし今回で執行は３回目、と言うマゴタ司法書士は長兄萩雄の剣幕なんぞは全くうわの空。聞いたところでしょうがないから告知後は沈黙。兄弟に遺留分はないから黙って実行するだけ。貴金属などはデジカメ写真を撮って目録を作りとっくに他の場所に移してある。各金融機関を廻って午前中に全ての預金封鎖届けも行い、夕方からは合鍵屋さんに新しい鍵を作ってもらう予定になっているのだ。そこで遺言書の謄本を見せながら「詳しくはこれをご欄下さい。預金は全て封鎖しましたよ。葬儀は故人の希望どおり文京区のカソリック教会で行います。日時ば決まりましたらどうぞお別れの式にご参列くださいますよう、ご案内申し上げるつもりです。」と必要な言葉だけを出す。相手が興奮すればするほど、逆に冷静になってこそ事は進行する。相手の興奮に吊られたのでは、原始時代の喧嘩闘争と何ら変わりないことになってしまうからだ。この冷静な行動を見て萩雄兄の心は益々荒れ狂い、近所の人を含めて誰彼と無く「あれだけシンパイしてやったのに、一銭もオレに寄こさないなんて全く合点がいかぬ、さてはあの司法書士の入れ知恵だな？あんなバカな妹はさっさとガンで死ねばいいんだ」と死者を誹謗することも厭わずに自己欲望主張を周囲に撒き散らして騒いでいた。同情を求め、自己の行為を正当化しようとしているらしい。そしてその故人への報復として、葬儀にも欠席した。

こうなると既に萩雄は単なる欲望の奴隷に成り下がっているのであり、思考分野がガスケツ的に不足していた。その因果として、いじけた感情分野も一人で勝手に暴れだすことになる。生物には全て欲望があり、その欲望は適当に持たねばならないが、その付き合い方が問題なのであって、欲が張り過ぎると思考や本能、感情分野へ越境してしまう。欲張りな人は、欲が左右にでしゃばってしまうので思考能力や感情コントロール能力がうまく機能しなくなり、狭窄症に陥りやすく、結果として社会生活において必要なバランスを失うことになるので人が意図したように動いてくれない結果、社会人として大成しにくくなる。だから大きな仕事はできないことが多い。今度も相続やその他の手続について何ら研究努力もなく、弟や妹を威嚇することにより、故人の遺産を分割するイニシアチブを感情面において独占的に取ろうとしていただけであった。しかし、当の本人である桐子は心の真贋を見抜き全ての遺産を親身になって面倒をみてくれた楠子姉さんとその長男に託したのである。彼女にとって兄の「シンパイヅラ現象」は単なるジェスチュアーだとぐらいにしか感じられなかったようだ。

一方のマゴタ司法書士は淡々と執行を開始、妬む長兄の葬儀欠席も視野に入れていたので世間体を気にして心配する楠子をなだめながら感情を入れない勘定裁きを続け、預金の預け替えを皮切りに早くも役所への各種届け、マンションの名義変更、保険金請求まで終わらせてしまい、相続人の楠子と受贈者であるその長男に権利書を渡していた。

そこまで一切の事務手続きが終わったことを知っても、まだ萩雄の心のコアは変化しない。「くそーあの野郎、あいつらみんなグルだ」とか言ってる。
なお復讐の気持ちは治まらず、今度は妹の楠子（クスコ）一家の不幸を呪いはじめた。楠子の夫が経営しているクスコ産業株式会社の役員に名義を貸していたのを取り消すため内容証明郵便を取引先や融資銀行にばら蒔いたり、税務署に脱税密告したり、社会保険事務所に保険料のごまかしがある、と匿名の電話をしたりした。証拠を示すことができなかったので役所は動かず、銀行には社長が説明に行ったので事なきを得た。しっかしまーなんと情けないことか。
ところがこうゆう心境になる人は存外多いのである。

隣の貧乏鴨の味、隣りの不幸は蜜の味、とばかり、自分の周囲に幸福そうな人がいるのを見かけるとそれだけで自分が不幸にされたような気持ちになり、その惨めさを拭き去るためには幸福そうな隣人を苛めて不幸に陥れなければならないと思い込んでいる現象としてあちこちに出てくるケースを目にすることが多い。これは相対的幸福論と呼ばれ、今後も幾度と無く出会う動機であるし、これからも無くなることはないだろう。例えば団地でもよくある話として隣りの部屋の方がピアノ買ったからうちも買う、ハワイに旅行したからうちもハワイへ、課長になったのにあんたは何してんのよ、頑張んなさいと夫を激励したりする。大脳や思考に幸福論を語らせるとこうゆう心情になることが多い。