資産家老女殺人事件U
岐阜山中で発見された解体業者社長は５４歳。東万住４丁目に住所を置いていたが、会社が倒産した後はずっと自分の車の中で生活している状態であって、既に妻とも離婚しており子供とも音信不通であった。倒産直後は債務整理交渉や債権者会議で土下座したり、と、大変であったが債権者がひとりふたりと次々に諦めてくれたのでもう恫喝されたり脅迫されたりすることもなく徐々に生活の平穏を取り戻しつつある。凸(▼ﾛ▼メ)おら〜
しかし連日自家用車内で眠るのはきつい。(/_;)ｼｸｼｸ
身体が段々と不調になってきた。第1寝苦しいこと極まりない。後部座席で毛布にくるまって蓑虫みたいに寝るのだが狭くて寝返りもうてないし、窒息しそうになるから窓を少し開けていると薮蚊や虫までもが侵入してくる。公園付近の深夜車内宿泊生活においても歯ブラシと痒み止めクリームは必需品なのであった。^^;
しかも何故か深夜に通り掛かりのホームレスの人に車を蹴飛ばされたりボンネットを叩かれたりしてびっくりして目が覚めることもあるので安眠できるのはサウナ風呂を利用しているときだけ。一度恐怖感を覚えると車内では中々その後も寝つけないものだ。いつしか車内はコンビニで買ったおニギリや菓子パンや
三角牛乳のゴミの山となり、毛布は機動隊の装甲車内部のように汗臭くなり、こぼしたコーヒーの臭いやタバコのヤニで不潔そのもの。夜間駐車は違法だが、公園の近くでないと水とトイレが不自由になるからどうしても都内近県の公園付近の路上が移動生活の本拠地となる。毎晩同じ公園で寝泊りしていたのではパトロールカーに乗って巡回している警官に職務質問され、おちおち安眠できないので毎晩移動する。朝は公園のトイレにある手洗い場や噴水で洗顔し歯磨きもする。その後、喫茶店のモーニングで小腹を満たしてから携帯電話で金策に走る予定を立てる。ま、自宅ではないものの結構規則正しい生活をしているものだ。
(^.^)旧知の間柄である本事件の重要参考人Aとはそんな状況の中で持ちかけられた保証行為であった。５０万円融通してやるから印鑑証明書を1通持ってこいと言われた。破産者にお金を融資してくれるなんて、なんと良い人なんだ、渡る世間に鬼はなし、と
ばかりこの話しに飛びついた。保証人適格の条件として当時は所有権移転登記対象物件所在地を管轄する登記所内において登記名義人となっていることを証明しなければならない、という条件があったが勿論その社長は登記物件を所有しておらず、また、
かつて抵当権や賃借権などの登記を経て名義人となった実績もなかったので本来は保証できないはずだった。が、Aの入れ知恵で一旦もう一人の保証人と共に賃借権の仮登記を済ませ、保証人適格を得て所有権移転登記の保証人となることにした。賃借権設定仮登記名義人としての委任状、同抹消登記委任状、加えて保証書への実印を済ませた。喫茶店で調印し現金５０万円を手にした。「ありがとう、このお金はいつか立ち直って事業が軌道に乗ったら必ず返すから」という言葉を受けてAはにっこり笑あ
いながら「ある時払いの催促なしっていうことでいいよ」と答えた。このお金はとても有り難かった。友情が身に沁みた。
しばらくして自分が保証したはずの見知らぬ女性が遺体となって発見された新聞報道を読み元社長は仰天した。「Aの野郎め、金に困っている俺を騙して自分はこっそりとでっかく何億円も儲けやがって・・・俺にはたった５０万円しか渡さなかったんだな、なんて欲深いやつなんだ」と怒り心頭。(｀ﾍ´) ﾌﾟﾝﾌﾟﾝ
かつての友情や恩義や善人づらは全くの虚構だったことが分かると、途端に反動的逆感情が巻き起こるもの。「もっと分け前をもらってもいいはずだ、俺には犯罪の片棒を担いだ実績があるんだから。」
とはいえ、必死に捜査しているS警察の刑事１２０人をも凌ぐたった一人の個人的捜査が必要なのであるからこれは実に至難の技である。(~ﾍ~;)ｳｰﾝ
「警察より先に捕まえて分け前をもらわなっくっちゃいかん。坪あたり単価が４００万円なら2ヶ所で８０坪あるから３億円以上は手に入れたはずだ。少なくとも１億円はおれの権利だ。」などとふとどきな発想を始めた。どうせ失業倒産の身の上。頼るものもなく、再就職のあてもなし。核家族時代に頼れる親戚もなく、天涯孤独の身なればこそ浮かぶ瀬はただ犯人Aを私的検挙することだ。」
昼夜となく犯人Aとのそれまでの交遊録や趣味や発言を思いだし、やがて日本国中のエリアの中から潜伏先は海外ではなく東京と名古屋の2ヶ所だろうと推定しAの行き先を限定して調査を開始した。「女連れだから案外簡単に割り出せるかもしれない。ホテルや簡易宿泊所には既に指名手配のポスターが張られているからきっと変装しているに違いない。(`_')ｷｯﾊﾟﾘ
かつて誘拐事件を起こしているからトチカンに長けているのはきっと名古屋だろう。
逃亡者はいつでも逃げられる様に地理に詳しいところに本拠を構えるはずだ。」
旧知の不良を見つけ出すにはその周辺の不良に聞くのが一番手っ取りバヤイ。
そして、
見つけ出したら手数料を払う、と東京と名古屋のスジモノらに声をかけた。
いわゆる懸賞金である。
出てこなければ全てのことを警察に話すぞ、そう伝えてくれ、とも付け加えた。虚偽保証罪という自分の犯罪を棚に上げて。
そして半年後、血と汗の結晶ともいえる複数の情報をもとに、
ついにAを高速道路のPAに呼び出すことに成功した。(^ー^)にやっ！
携帯電話
で連絡を取り合いながら久しぶりに会ったAは顔がやつれてすっかりスマートになっており、口ヒゲをたくわえカツラをかぶっていた。メガネは勿論黄色くて大きめのサングラス。(ﾟ.ﾟ)?指名手配写真は誘拐事件当時のままで古いものであり現在の姿とは全く異なるからこれでは人前でも判別することは不可能である。ヤツが凶暴な性格であることは百も承知だからおもむろに警戒しながらゆっくり近づいた。向こうも金をゆすられるに決まっていると踏んで慎重な言い回しをするだろうし。
「随分とお前さんを探すのに苦労したぜぃ」と、白髪をかきあげながら積年の恨みとばかり私的捜査の苦労を語り、自分の不幸な境遇をうったえて窮状を涙で語る。しかしＡは動じない。元社長は少々焦り、しばらくすると強い態度にでた。一転して恐喝。要求額を払わないのならば全て警察にばらすぞとばかりに元社長は現金１億円を要求した。が、Aは逃亡資金に使ったとか、他の場
所に隠してあるとか言ってなかなか首を縦に振らない。取り敢えずその日はポケットに入っていた１０万円だけをもらい、後日再度話し合うことにして別れた。(゜ρ゜)よだれ
その後のやりとりを経てAが岐阜山中に埋めた３億円を掘り出してその場で渡すことになり、二人はそれぞれの車で現場へ向かった。林道の脇に停車し、スコップを１本ずつ持って細い道を分け入りそこから目印となる梅の木を左折して５０メートルくらい進むとポリバケツ程度の丸い大きな石が不自然にも二つ並んでいるところがあった。ここに埋めてあるからお前が掘れ、とAが言う。地中の現金を前にして涎をたらしながら石を動かし、言われるままにスコップで掘り始める元社長。そろそろ暗くなってきた。日が暮れる前に掘り出さねばならない。「大雨が降って土が流されたらお金も露出してしまうから１メートルくらい深いところに埋めた」というAの言葉を信じてひたすら掘ること３０分。突然大きな石が元社長の頭上に襲い掛かり元社長は即死した。Aがまたしても凶行に及んだのだ。掘り掛けた穴にそのまま元社長を埋め、スコップを持ってそ知らぬ顔でアジトへ帰宅した。悪に群がる悪を更に悪行を以って処断するという悪循環である。しかしこの場面においても原因と結果がそれなりの相対関係ともいえる。
下草刈りで発見された元社長の遺体を前にS警察は犯人Aの捜索を再開したが、またしても見つからない。
元社長に見つけられたものがどうして公権力を以ってしても逮捕できないのか、不思議。それにもう一人の保証人である保険外交員の消息も掴めない。謎の女性Bの足取りも不明。おそらくAとまだ一緒に逃亡しているのであろうが、名前も顔も本籍地も把握していない。週刊誌やワイドショーやモーニングショーはまたもや派手に描きたてた。
そうこうしているうちに月日が経ちまたしても迷宮入りとなるかと誰もが諦めかけた時、某県営住宅に覚せい剤取締法違反の容疑で捜索が入った。スナックのお客からの通報がきっかけだった。張り込んだ刑事が容疑を固め店と自宅の３箇所に一斉捜査に入った。
が、迂闊にも踏み込んだ時、たまたまAが不在だったので押収品と共に「妻」が任意同行を求められ警察で取り調べを受けたところ、刑事が質問もしていないのに自分からすすんであっさりと１０年前の資産家老女殺人事件の犯人の一人である謎のB女
であることを口述しはじめたので刑事は驚いた。どうやら永年にわたる逃亡生活に疲れて観念したらしい。そこで慌てて再手配し、Aが帰宅するのを待って逮捕。その時は人相書きとは全く異なる風貌だったから刑事が逮捕するのを躊躇したくらいだ。この事件はかくして１件落着した。それにしてもAは他人になりすまし、中古のジャガー
に乗りながらも家賃の安い県営住宅につつましく住み、2件のスナックで堅実な経営をしていたそうだ。おわり
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