女性の美人銀行員の沢田さんは出金するお客様かと思い、カウンター越しに愛想良く「いらっしゃいませ(^.^)」と笑顔で迎えた。
カウンターに黒い大きめのバッグを置き、チャックをあけるやいなや、男は柳刃包丁を取り出し、彼女に刃を向けながら低い、ゆっくりとした声で「騒ぐな、金を出せ！」と言った。(メ▼。▼)y-~~~おら〜
言ったのはよいが、声が小さいのでよく聞き取れなかった沢田さんは「えっ？出金でございますか？お客様」と聞き返した。(^_^;)?
刃物を突きつけられているのだが、なんだかテンポがのろいのであまり驚かなかったのだが、まあ、一応刃物を目の前に突きつけられているので普通のお客様ではないことは確かだった。全然動揺しない彼女を見て
男は「違うよ、お金を出せ、と言っているんだ、聞こえないのか？！！！」と、気張って今度はより大きな声を出した。
このシーンを見た隣の女子行員が沢田さんの方を注目し、足元にある非常ベルを鳴らして警察に通報しようとしたが、あまりに沢田さんが冷静な対応をしているので見送りながらも仕事が手に付かない様子。
沢田「えーっ、ですからお金を出すにはあちらの向かい側にあるカウンターに出金伝票がありますから、そちらへ記入して頂いて、ご通帳と一緒にお出し下さいませ(^.^)」
男「ふざけんな！俺は強盗だぞ！通帳なんか持っているわけないだろー」
沢田「左様でございますか、通帳をお持ちになっていないのでしたら別の手続きになりますが・・」
男「だったらなんだよ、早くしろ、おれは急ぐんだ！」
沢田さんは少しも慌てない。何しろ相手の言葉が低くて小さくてしわがれているので良く聞こえないので頭の中でゆっくり相手の意図を翻訳しながら聞いているから自然と冷静になってしまって、だから少しも動転しないのである。やっぱり人を脅かす時はすぐ聞き取れるような大きな声でやらねばならない。恐喝相手に冷静になられたのでは動転しないから脅かしても効果がないのである。
沢田「それではしばらくお待ち下さい。上の者と相談して参りますから。それまであちら側にありますソファーにお掛けになってお待ち下さい。すぐ参ります(^.^)」
男は頷いてヨタヨタとソファーに向かい、どっかりと腰を下ろすとふーっと深いため息をついた。(~O~)ﾌｧ･･･
店内は暖房が効いているので白いマスクが息苦しいのかもう半分おろしている。息も絶え絶えっていう感じだ。早口で？しゃべったのか、興奮して動悸息切れ状態。
沢田さんはどうやらかなりお年を召した方だと思い、やりかけの仕事を隣の女子行員へ託してから二階へ上がろうと思ったけど、その前に自分の席の後ろにいる預金課長へ声をかけた。一応、なんというか、つまり、非常事態なのである。
預金課長の男性は上着を羽織ると素早くカウンター横の扉を開けてソファーに腰掛けて待っている男のところへ行って、「お金はすぐ出しますから取り敢えず包丁をおしまい下さい」と言った。男は自分の思いが伝わったと感じたのか、黙って包丁を黒いかばんの中にしまった。
なんだか素直な強盗だ。
上司が二階から降りて来るまで話を聞く。どうやら７５〜６歳くらいのかなりの高齢者だ。
名詞を下さい、というと男はカバンを開けて取り出してくれた。見ると「少年白虎隊多摩支部総務顧問」と太字で書いてある。なんだかよくわからない。
こんな爺さんがなんで少年白虎隊なのか？う〜ん、なんだかインパクトがないなあ。もっと怖い名詞を出すかと思ったのに、なんだか拍子抜けだ。
だいたい強盗が名詞なんかだすかよ？
やがて上司が沢田さんと共にやってきたので、立ち上がって預金課長が聞き取った事情を簡単に説明した。
上司は「おいくらぐらいの金額がご入用ですか？」と強盗もどきの男性の声を確かめる。
男「５００万、いや、１０００万は必要だ。すぐに出せ！」と強盗は確固たる意思を明確に告げる。
上司「それでは二階にお上がりください、一階にはそれほど多額の現金は用意してありませんから。」
３人は二階へ上がり、上司たる支店長はお茶を出すように沢田さんに命じると共に、ρ(^^ )ﾉ ｻｧﾄﾞｰｿﾞ!!
預金課長に対し警察へは緊急通報ではなく普通の電話で通報するように命じた。時間稼ぎを狙う。
支店長室に丁重に案内されたことに気分を良くしたのか包丁をカバンにしまったまま、
高齢強盗男はお茶をすすりながら支店長と世間話を始めた。 <(｀^´)>ｴｯﾍﾝ
ζ~~
( ^‐^)_C■＿ (ﾟ▽ﾟ*) ｲﾀﾀﾞｷﾏｰｽ
√￣√
なにしろ迫力がない。気力がない。もしかしたら、単に刑務所へ入りたいだけが動機なのではないか、今では塀の内側の運動会で食いきれないほどのお菓子も出るそうだ。などと気を配りながら強盗爺さんに話を合わせて刑事が来るまで時間稼ぎを狙った。一応刃物を持っているし。
男は昔街宣カーで全国遊説した話、新聞報道をみて不正融資が発覚した金融機関へ単身乗り込んでいくばくかのお黙り賃をもらったとか、総会屋をやっていたころはタクシーを一日中チャーターして集金した話、最近は寒くなったので「おでんが美味しい季節になりましたねぇ」などと得意げになっていた。この会話が権威と過去の栄光を見せ付けてることにより銀行員に畏怖の念を抱かせているつもりなのか不明。
支店長は一応、真剣に聞いているふりをした。φ(｡｡)ﾒﾓﾒﾓ
通報を受けた警察も困った。地域防犯に行かせるか、刃物を持っているというが、なんだか迫力がないうえ、「金を出せ」という言葉が不法行為を意味するのか残高不足口座からの払い戻し契約の申し込みなのか、よく通報内容を銀行員から聞いても判断がつかないのだ。(~ﾍ~;)ｳｰﾝ
電話対応した副署長はしょうがないから、地域防犯に連絡しようと思ったが、預金課長が制服警官より私服刑事を望んだので本署から二人の暴対刑事を乗せ、パトカーで出動させた。そのスピードは飛行機よりも早い。
が、銀行近くまで来ると犯人に悟られないようにサイレンの音を消した。やがて通用口の前へ刑事が到着した。預金課長が出迎え、ひととおりのやりとりを説明する。
「なんだかちょっと変な強盗です。今、二階で支店長と雑談しております。階下へ呼び出しますのでしばらくここでお待ち下さい。」
二階へ駆け上がることも無く、ゆっくりと階段を昇り支店長に目配せして、強盗爺さんに丁寧な言葉をかける。
預金課長「お客様、お待たせいたしました。今、現金が一階に到着しましたのでこちらへお越し下さい、ご案内します。」と強盗爺さんを階下へ招き、裏にある通用口で待機しているパトカーに誘導した。通用口の扉を開けた途端パトカーを見て仰天した爺さんだが瞬く間に両腕を私服刑事につかまれて、そのままパトカーに連れ込まれた。(^o^)//"""パチパチパチ
行員らにこの話が広まり、翌日の社会面には３段抜きぐらいで「高齢強盗現る！」という記事が出るかな？と思い、半ば期待しながら皆で手分けして新聞各紙を読んだけれど、どの新聞にも報道はされていなかった。(･_｡)ｽﾞﾘｯ
警察からもその後連絡がなかったので支店長がおもむろに挨拶方々警察署を訪れて聞いたところ、逮捕（というか単なるご同行なのだが）後、男性高齢強盗さんには取調べしたあとでお昼ご飯をご馳走してあげて、電車賃を渡して帰宅させた、とのことであった。何故沢田行員のカウンターへ最初に近寄ったのか？という警察の取調べに対して犯人は「美人だったから」と答えたそうだが、その話を聞いて一番喜んだのは言うまでも無く沢田さんだったそうだ。
あ〜あ、歳はとりたくないもんだ。(ｰ"ｰ;)
